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ナギサ・カワサキの暗殺日誌(2)

 暗殺に最も必要な物。

 ――――――それは目的の人物を躊躇(ちゅうちょ)なく殺す度胸?

 ――――――それとも一撃で仕留める腕?

 ――――――あるいは絶対に大丈夫と言えるくらい完璧な作戦?



 私、ナギサ・カワサキが思うに、暗殺で一番大切なのは『隠密』である。誰にも見つからずに、勿論目的の人物にも見つからずに行動する事。それが暗殺に置いて最も大切な行為であると、私は思っている。



 赤い屋根の館――――――イスカンダル邸。この客室の間と言う場所にワルダックが居る事は窓の外から分かっている。その部屋から目的の人物のゲスい笑い声が響いているからである。



「……どうやらこれが、セグウェイが私に暗殺を頼んだ理由なのでしょうね」



 と、私は小さく呟いた。



 【教会軍】と【勇者軍】が揃って【魔王軍】を攻めるのに必要となって来るのは、【魔王軍】に襲われたと言う事実を正しく証明出来るかと言う事に限られてくる。それを言うのは豆羽ユウトとワルダック。そしてそれが正しく証明されるのかどうかは、彼らの日頃の行いからの仲間からの信頼度によって関わって来る。



 ―――――――信頼度が高ければ、その情報は嘘でも信用される。

 ―――――――逆に信頼度が低ければ、その情報は真でも信用されない。



 そして豆羽ユウトは【魔王軍】に襲われたと言う事を【勇者軍】に納得させる事が出来て、ワルダックは【教会軍】に納得させる事が出来なかったと言う事なのだろう。



「……そして私の暗殺で、ワルダックを始末。そして【魔王軍】の怒りを増幅させると」



 何てことだ、と私は顔を軽く叩く。友の敵討ちをするために、仲間の軍の状況を悪くする手伝いをさせられるだなんて。



「……いや、待てよ」



 と、私は考える。



 要するに、セグウェイは私に暗殺をしてくれと頼んだ。何故ならば、ここで銃による暗殺があった場合、真っ先にセグウェイ、【勇者軍】が疑われてしまう状況下であるからだ。

 ならば、私が銃で暗殺すれば、セグウェイの犯行だと思われて、【勇者軍】の風当たりが悪くなるのではないだろうか?



「……! そうだとすると拙い!」



 と、私は誰にも見つからないように潜入の速度を上げてお目当ての人物の部屋へと向かう。



 こんな事をすぐさま私が考え付くくらいだ。先に向かったとされるセグウェイが、ワルダックを私のこのセメントグローブで殺したように見せかけようとしているかもしれない。それは拙い!



 私は客室の間を開ける。



「……だ、誰だ! 貴様は!」



 と、部屋の中を開けるとおったまびっくり。ワルダックは数人の女を抱いてベッドに横になっていたのだ。しかも彼女達はどこからどう見ても教会の関係者じゃない、ただの娼婦にしか見えない。



(……幹部クラスの賢者様が、冷戦下の状態で部屋に複数人の女を抱いている? これは確かに、信じろと言う方が無理な話ですよね)



 と言うか、豆羽ユウトはこんな小物みたいな人物と取り引きをしようとしていたのかと思うと、明らかに人選ミスをしたなと小さく笑っておく。



「……な、何が可笑しい!? 何がそんなに可笑しいのだ!」



 何か豚が喋っているようだけれども、教会の教えを守っていないそれほど強くも無いただのおっさんなど、豚以下だろう。



「……まぁ、目撃者は全員消しておくか」



 と、私はそう思って一瞬でワルダックの前に立つ。



「……な、何を――――――――」



「……考えなくても結構。そんな必要はもう無くなるんだから」



 と、わめいているワルダックを私はセメントグローブで殴りつける。ワルダックはそのグローブの衝撃で身体が抉られて、完全に死亡した。そして(わめ)き立てる女達も同様にして殺処分する。



 1発、2発、3発。全部で8発。



「……8人の女と一緒に寝るだなんて、その顔で出来るとはハーレムも楽になったね」



 と皮肉を言い、誰にも見られない内に退散しようと思って、賊がやったのに見せかけるために窓をぶち破ろうとグローブを振りかぶる。



 バキュン!




 と、そのグローブに何かが当たり、ボロボロに砕け落ちた。



(……セメントを一撃で? 何にせよ、その武器は《盗んで》、使えなくしましょう)



 私は飛んで来た方向を瞬時に探しだし、集中する。そして目を開けて、《盗み出す》と手には予想外の物が握られていた。



「……おいおい。マジですか?」



 その手の上にあったのは、セメントを到底破壊出来そうにない『折鶴(おりづる)』だった。



「―――――――【魔王軍】の四天王の1人にして、【ナギサ・クジョウ】の片割れであるナギサ・カワサキ。通称、【形泥棒】。

 ワルダック様を殺すとは、不届き千万。今宵が我の勤務日だった事を恨むが良い」



 仰々しい声と共に、その折鶴を盗み出した方から1人の男性が出て来る。イガグリのように荒々しくて刺々しい黒い髪、視線だけで誰も彼もを殺せそうな鋭い目つき。恵まれたガッシリとした身体を覆う、真っ白なジャケット。そして顔の右半分には【常住戦陣】の文字が刻まれている。



「我が名は【戦術賢者】、ヒカロウ。恐らく並み居る【戦術賢者】の中でも、お前と最も相性が(・・・)悪い(・・)相手だ(・・・)

【ワルダック】

 高い地位+大金+巧みな話術=女にモテモテ!

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