ナギサ・カワサキの暗殺日誌
その日の夜。
ナギサ・カワサキは、セグウェイが憑りついているハイエナバードを連れて【勇者軍】の居る街の1つ、白銀都市ガスパレードへと馬を飛ばして向かっていた。そんな彼女の瞳はとっても不服そうな表情をしていた。
「……なんで私がこんな事を」
と不服そうな顔で肩に居るハイエナバードを見つめている。
「……ワルダックを暗殺って。暗殺の得意なのはあなたなのでは? セグウェイ?」
《そうなんだけどね。銃殺すると明らかに私が疑われますから。相手はこちらの能力を分かっていますし。ですから、あなたに頼んだんですよ》
「……なるほど。それが理由で私に頼んだと。でも、まだ分かりませんね。あなたは彼を助けてたじゃないですか。それがどうして今となってワルダックを殺すと?」
と、その質問を聞かれた瞬間、セグウェイは酷く動揺したように言葉を押し止めていた。そして数十秒、夜道に馬の蹄の音しか聞こえない時間が続いた。
《……少し厄介な事情が起こったのよ》
と、セグウェイは一言そう言うのであった。そしてそれを聞いたナギサは一言、「ふーん……」と言うのであった。
「……まぁ、私もそこまで興味がある訳じゃない」
《ありがたい事だよ》
そうこうして居る内に、白銀都市ガスパレードへとやって来たナギサとセグウェイ。街は多くの人間に溢れていた。そして何名かの兵士もうろついている。
「ここにその狙いの人物、ワルダックが居ると」
《えぇ、あそに大きな館があるのは分かりますか?》
と、肩から飛び立つハイエナバードは北の方の空を飛ぶ赤い屋根の館の方へ少し飛んだ後、ナギサの肩に止まる。そして《分かった?》とでも言いたげに首を傾げるハイエナバード。
「あの赤い屋根の洋館に、ワルダックが……」
《急に暗殺が怖くなって場所を変えた、と言う事が無い限りはあそこに居ると思いますよ~? メイドの数は20名、兵士の数はそれと同等、後、【戦術賢者】が居るから気を付けて》
「【戦術賢者】……マジですか。あんなのが居るんですか」
【戦術賢者】。それは【教会軍】における指揮官の事である。戦闘能力に長けた、戦場に置いて戦力として数えられる者達の事を、【教会軍】は【戦術賢者】と呼んでいるのである。
「……で、どんなのが居るの? まぁ、分かりやすく考えれば、あなたが銃で暗殺する際、面倒臭いと思わせるような相手と言う事なのでしょ?」
《ご明察、ですね。身体を鋼鉄化出来る【戦術賢者】、ミストラル。はたまた遊撃がお得意ラッキーマンな【戦術賢者】、ミツボシなどが居ると聞かれていますが、どちらにしても私を警戒して銃と相性の悪い【戦術賢者】を配置しているらしいです》
「……」
どれだけワルダックに暗殺されていると思われているんだろうと、ナギサは「それで良いのか」とそう思っていた。まぁ、どうとも関係無いんだけれども。
《……では作戦をもう1度おさらいしておこう。君にお願いしたいのは、ワルダックへの暗殺。その際の障害は自分で排除して貰うしかないですよ》
「……報酬はあなたとの1対1での対決、で良いんだよね?」
《二言はありません》
「そう……なら、良いの」
そう言って、ナギサは自身の手にセメントを纏わせる。そしてお手製のセメント製グローブを作って、地面を殴る。そして感触を確かめて、思った感触が感じられたらしく、「……うんうん」と頷く。
《それは必要な行為かい?》
「えぇ……。こんな対決で拳を傷付けられないんです。この後、すぐにでも戦いたいので拳を傷付けたくないんです」
《確かそれ、唾液だと聞いたんだけれども? 両方の拳を唾液で包むって、変態的な趣味だよね》
「黙って……」
ハイエナバードは《ハハハ……》と笑いつつ、飛び上がる。
《私はこの銃をあの赤い屋根の館の誰かに渡すために、先に行ってますね。なお、逃げた場合はどうなるかは分かってるよね? じゃあ、お先に失礼》
そしてハイエナバードは飛び立ち、赤い屋根の館へと向かって飛んで行く。そしてナギサはそれを見送っていた。
「……はぁー。ったく、暗殺を頑張らせて行きましょうかね」
そしてナギサは赤い屋根の館へと馬を進めて行った。
【戦術賢者】
教会を守る盾として、戦闘能力を鍛えた者達の事。
『神に1日1回はお祈りをする』事を除けば何をしても許されるが、有事の際は教会側の戦力として、こき使われる。
【ミストラル】
【教会軍】所属の【戦術賢者】の1人。身体を鋼鉄化出来る魔法を使い、無傷にて勝利をもぎとる武闘派。
子供が大好きなのだが、顔の怖さも相まって嫌われてるとか。
【ミツボシ】
【教会軍】の【戦術賢者】の1人。銃弾を決して受けない幸運体質と言う特殊体質の持ち主。本当は全身に魔法で狙いを逸らせる魔法をかけている。
遊撃が得意なラッキーマンであり、プレイベートでは女性の家をはしごするチャラ男。