表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/266

ナギサとセグウェイ

 ―――――――――どうしても殺したい相手が居る。



 ナギサ・カワサキはそう思いながら、調整のために、そして怒りをぶつけるために壁を殴り続けていた。



 1発。壁に衝撃が走る。

 2発。壁が凹む。

 3発。壁の内側の構造がめくれ始める。

 4発。―――――と、そこで彼女の拳がゴキッと嫌な音を立てる。



 そこで、ナギサ・カワサキは殴るのを止めた。



「――――――全盛期の2割、と言った所でしょうか? それが今の私が出せる全力。……それでも十分な戦力ですね」



 とそう言って、彼女は自身の手からセメントを出して傷ついた拳を覆う。



「……黴菌(ばいきん)が入ったら大変です。幸い、この私の身体から出たセメントは唾のように軽度の殺菌効果があります。まず、これで応急処置のために、衛星班の元に――――――」



《へぇ、そのセメントってあなたの唾だったんですね。引きます。少し距離を取らせて貰いたい所ですよ》



 と、その声に反応してナギサはバッと、声のする窓の方へと振り向く。そして彼女の額に銃口が当たる。



《――――――おっと、動かないでくださいよ。風穴を開けられたくはないでしょう?》



 ――――――そう言ってナギサに銃口を突き付けているのは、



 ――――――この街に住む一羽の鳥の魔物だった。

 低級モンスター、ハイエナバード。他者を倒すほどの圧倒的な戦力を持たない彼らは、他のモンスターが食べ残した肉片をこっそりと食べ生きて行く事を選んだ、この地では『奪取鳥』として忌み嫌われているモンスターである。



《どうも、セグウェイです。久しぶりですね、ナギサ・カワサキ》



 と、ハイエナバードは――――――ナギサが殺したい相手の名を語り、ナギサに話しかけていた。



「……何ですか、それは。あなたは鳥にまで変装できたんですか? それは驚きですね。仰天しましたよ。頭に銃口をぶつける以上の衝撃ですよ」



 と、ナギサはそう言いながら両手を挙げて一歩下がる。



《そうそう。それですよ。銃を突きつけられたら、『手を挙げろ!』と言う前に手を上に挙げるのが少し距離を取る良いマナーです》



 そう言って、ハイエナバード、セグウェイは窓枠に捕まる。



《後、何か勘違いしているかもしれませんが、流石の私でも鳥には変装出来ません。これは私の能力です》



「……」



《この鳥、銃を持っているでしょ? これは私、銃で形を作っているセグウェイの身体の一部です。私は銃を持った生物を操る事が出来る。本体は別に居ます。ですので、この鳥を殺しても復讐は果たせませんよ?》



 その言葉を聞いたナギサは、後ろのポケットに隠し持っていた短刀に手を伸ばして地面に置く。隙を見て投げようと思っていたが、本体でないのならば仕方ないと思ったのである。



《そうそう! 私は今、【勇者軍】の陣地に居る。だから、この能力は別に距離から出たら使用不可になるとか、考えない方が良いよ? その方が賢明だ。

 なにせ、今君の大切な【魔王軍】の人達や黒塔都市サルファイアに逃げて来た民達の命を、今か今かと狙っているんだからね》



 それは暗に、「逃げたら殺す」と言った脅迫だった。今から【勇者軍】に向かえば、今の自分の身体だったら数分で行けると確信していたナギサだったが、自分を助けてくれたリリーベルさんを危険に晒す訳には行かないので、押し留まった。



「……完全に信用した訳じゃない。ただ、そう言った可能性を考慮しただけだ。決して、敗北を認めた訳じゃない」



《そうだね。懸命だよ。

 確かにリリーベルさんの命を狙っていたり、民達の命を狙っているのは嘘かも知れない。けれども、本当かも知れない。それに私の位置が【勇者軍】かどうかも本当か嘘かも分からない状況だしね。君は本当に賢い》



 と、セグウェイはバカにしたような声で言う。ハイエナバードと言う意地汚い習性を持った鳥の口から放たれるその声に、ナギサは歯を噛みしめながら怒りを抑えた。



《ナナミ・クジョウ。彼女は優秀な肉体を持っていた。けれども、その分頭が足りなかった。いつ、どこが戦場と変わるか分からないこの状況で、君の姿を見て警戒が緩んだ》



「……その時に引き金を引いて、殺した、と?」



 拳を強く握りしめるナギサ。怒ってもダメ。この怒りは、本体であるセグウェイを探し出して、ぶつけるべきだと。



「……もしかして、ミコト・デスルードさんも今のように脅して殺したんですか?」



《そう。彼女は暗殺技術に置いては私に負けていた。私が隠れて撃った弾を彼女は、当たる直前まで気づかなかった。けど、流石だったよ。弾に気付いた直後に身体を無理矢理(ひね)って避けて、私を探し出して銃口を向けた。それからは激しい銃の撃ち合いさ。しかし、彼女の銃の技術は素晴らしい、彼女は私に勝っていた。1発の銃弾で私の弾3発分の働きをしてたんだから。

 そして追い詰められた私は、彼女に――――――義妹のヴァンパイアの身体を今のように操って、目の前に現れさせて言ったのさ》



『あんたの妹は大丈夫?』



 それがミコトが死んだ理由だった。



「……えげつない事を」



《死んだ方が負けのこの世界、卑怯も糞も無いですよ。この鳥のように》



 と言って、翼を大きく開くハイエナバード。それにナギサは溜め息を吐く。



「……で? 自分の行為が優れている事を自慢しに来ただけじゃないでしょ? 本題は?」



《おっと、そうですね。忘れていました》



 と、あっけらかんと言うセグウェイにナギサはイラッとしながらも、怒りを抑えてハイエナバードを睨み付ける。そしてハイエナバードの口から、セグウェイの言葉が、ナギサの耳に届いて来た。



《――――――君と1対1の勝負をしよう。ただし、こちらの条件を飲んでくれたらの話だ。大丈夫、君の不利益にはならない。



 ――――――ある人物を暗殺してきてくれ。そう、【教会軍】のワルダックさんをね》

【ミコト・デスルード】

 銃にてセグウェイを追い詰めるも、妹を人質に取られた姉は何も出来なくなったみたいです。



【ワルダック】

 暗殺対象。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ