サルファイアの【鋼の城】支部
黒塔都市サルファイアにあった【鋼の城】の支部の受付は今までとは違って、人間では無い魔族の女性だった。
「は、初めまして! この【鋼の城】の受付をやらせていただいています、コトミと言います」
その女性は白髪で赤い瞳が綺麗な白衣の色白なクール系な美人だった。腰には拳銃があり、背中からは人間でない事を説明するかのように大きな黒い翼が大きく広げられている。ニコリと笑みを浮かべる彼女の歯は、鋭く尖っている。
「きゅ、吸血鬼ですけれども、そんなに警戒しなくても大丈夫です。魔族って言っても基本的には、少し趣味嗜好が違うだけで、皆さんと同じただの一般人ですから。あ、あと、依頼料はちゃんと渡しますからね?」
そうやって落ち込んでいる彼女に、僕達はコトミさんに慰めの言葉をかけていく。
「あ、あぁ……別にそんな事は思ってないんだけれども」
「思ってないよ!」
「そうですね、私もそうは思っていませんね」
「……人種で差別はしてはいけない」
「え、えっと勿論、私は差別しませんし。安心してください、私達はあなた達の味方です」
僕達5人が揃って慰めて行くと、コトミさんは「うぅ……ありがとうございます……」と泣きそうな顔で丁寧な感謝の言葉を言うのであった。
「そ、そうですか。良かったです。お姉ちゃんのおかげでそれなりに良い暮らしは出来てますし、差別も減りましたけれども、やっぱり私は皆に嫌われてますし。吸血鬼って【血を吸う悪魔】だと、魔族の仲での評判も悪いんですから」
そう言って感謝を貰って嬉しそうな顔をした後に再び落ち込む彼女。なんだか月裏さんを思わせるくらい、ネガティブ思考の人物である。
「……わ、私も分かります。こう言うのって、やっぱり悲観的になりますよね。けれども、それと良く付き合うのが人生です」
と、月裏さんが言っていますし。それを受けて、コトミさんも「分かってくれて嬉しい限りです……」と感極まっているし。
「えっと……朝比奈さんはBランクですね。実力もレベルも、【魔王様】からのお墨付きとの事でBランクに相応しいと言っていましたし」
「な、なんだか恐縮なんだけど……」
あんまりギルドに出ていないのにもかかわらず、それなのにBランクなんて大層な物を貰っても困るだけなんだけれども。
「……と言うか、この街の魔物はBランク相当の物がほとんどを占めていまして、Bランクにしないとクエストをほとんど受けられないのが現状なんですけれども」
「そう言う事はあんまり聞くたくは無かったんですけれども」
と言う事はただの予定調和じゃないですか。嬉しくなって損したじゃないか。それを聞いた僕はなんだかがっかりして、「はぁ……」と溜め息を吐く。
「……ま、まぁ、力が無いといけないのは確かですし、そんなに落ち込まなくても良いです……よ? ほら、今出ているBランクの依頼はこちらです」
そう言って、彼女が僕達に差し出したのはBランクの依頼書のまとめだった。討伐系、採取系、それに他の物を集めた依頼書のまとめであった。
「これは……? 種類別にまとめられてて、それにとっても見やすいですね」
「え、えぇ。ギルドも依頼を与えて貰う時代なんですから。ならば、分かりやすいようにするのが一番です。そのために力を出すのが私達の使命なんです!」
「サポートは任せてください!」と力強く言う彼女。
僕達は呆気にとられるが、とても良い人なんだなと納得して依頼を選ぶ事に下。そして討伐系の依頼を2つ、採取系の依頼を3つ選んで渡す。その時、彼女はふと気づいたように僕達を見る。
「あっ、そう言えば皆様は【魔王様】のご友人とかで、【魔王城】に居ると城の兵士さん達から聞きましたが、私の姉にお会いましたか?」
『姉……?』
僕達が不思議に思っていると、彼女は言葉を続ける。
「私の姉、ミコト・デスルードは【魔王軍】の四幹部、四天王の1人なんですよ。再婚した際に出来た義理の姉ですが、私は誇りに思っています。
……そう。とっても大切な、私の『家族』なんです」