魔王と獣の真価
「ユウトとワルダックの2人は、クジョウさんに任せました。あの子は足が速い。何せ、秒速50kmも出せるくらい足の速さに関しては自信がある。だから、大丈夫」
「秒速50kmって……」
1秒間に50kmをも進む事が出来るって事!? どんなオーバーキル……いや、オーバーランだよ……。いや、速度だけか。故に【光速獣】と呼ばれているのだろうか?
「ユウトとワルダックの足の速さがどれくらいかは知らないけれども、クジョウさんの足の速さには勝てない。彼女には奥の手があるしね。だから、私は君達を助けに来たんだ」
奥の手……? 秒速で50kmも出せる凄まじい身体能力の持ち主がそれ以上の速度を出せると言うのだろうか? まぁ、そちらに関しては本当に大丈夫なのだろう。それで僕達を助けに来た、と言う事なのだろうか。
「初めは大丈夫かとは思ったんだけれども、ユリエル姫が毒の墨を受けているみたいじゃないか。なら、助けないと。
……まぁ、私もそんなに強くはないんだけれども、使い勝手が良いからね」
自分の手の上に青い銃弾を練り上げるリリーベル。それは魔力で作られた物みたいで、ふわふわと宙の上で揺れながら彼女の手の上に存在している。
「これが私の能力―――――――魔力を一定の形に固定化する。魔力は通常以上に食いますけれども、それでもこの魔力の固定化能力は凄いんだけれども。
――――――――なにせ……」
そう言って、リリーベルはその青い弾丸をアオモリポルポの方に向けて発射する。発射された青い弾丸は、アオモリポルポへと一直線へと行き――――――アオモリポルポは墨を発射してその青い弾丸を防ごうとする。しかし、青い弾丸はその墨を普通に突き破り、何重もの足で作ったアオモリポルポの防御を破っていた。
「シュー!?」
アオモリポルポは驚きながら、逃げようとするが壺を被った状態である事に気付いて、その壺を銃弾の前に出す。
そして青い弾丸は壺の中の自動墨発射装置も壊して、そのまま壺を貫いた弾丸はアオモリポルポの身体をも貫いて、その身体から大量の血を流させていた。アオモリポルポは出血死にて、そのまま地面へ向かって落ちていた。
「固めた魔力は魔力が切れるまで、どんな事があろうとも防がれない。障害物だろうと、空間だろうと、魔力が切れない限りは防がれる事はない。それが私の能力なんです」
そう言いつつ、リリーベルさんは「さぁ、後は【光速獣】のナナミ・クジョウを待っていますよ」と言って僕達を魔王城へ戻るように促すのであった。
☆
ナナミ・クジョウ。跳ぶ事に長けた兎の獣人である彼女は、体力バカ……と言うよりかは運動バカである。
どれくらい運動バカだと言われれば、秒速50kmを出すために毎日200kmをウォーミングアップとして走り込み、既にこの世界に彼女以上の速さを持つ者は居ないと言わせるくらい彼女は運動能力が高い。
「だから、すぐに捕まえられたよー!」
そう言って、ナナミは顔を笑みに浮かべてVサインを出す。秒速50kmの彼女から逃げ切る事は出来ない。縄で縛り上げたユウトとワルダックの姿を見て、【魔王】であるリリーベル・フランベルに頼まれて様子を見に来たナギサ・カワサキは「はぁ……」と言いながら予想通りだと言う顔をする。
「……秒速50km。あなたに捕まえられない者なんて、余程凄い奴でしょうね。それに奥の手もありますしね」
「そうだねー! まぁ、滅多に使わないけれどもね」
クジョウは「じゃあ、早く【魔王】様にこの2人を持って行きましょうかね」と言って縄に手をかけた。ナギサはそれを「はいはい」と言って、先に行くよと言う気持ちを込めて先に行く彼女。
「はいはい、今行くからねー」
と言いつつ、クジョウは縄に手を取って、
――――――そのまま、無慈悲な銃弾に撃たれて死亡した。
「……えっ?」
ナギサは慌てて後ろを振り返るが、そこにあったのは縄に縛り上げられた2人と、その2人の縄の先を持ったまま立っている、頭の無い死体だった。
「ナナミ――――――――――――――!?」
ナギサは大きな声でそう叫んでいた。
「―――――作戦開始。これより、ユウト様とワルダック様を回収します。まぁ、その前に距離を取って置こう」
そんな冷静沈着な、彼女を撃っただろう犯人の声がナナミの耳に届いていた。
【リリーベル・フランベル】
自身の体内の魔力を硬化させると言う力を持つ。空気中に魔力を出して、墨や雷を防いだり、形を固めて武器にしたりする。なお、魔力が切れるまで、その硬化させた物を防いだり、破壊は出来ない。
【ナナミ・クジョウ】
跳ぶ事が得意な兎の獣人が、秒速50kmと言う驚異の速さを持っています。ただし、奥の手は使われずにお亡くなりになりました。
【犯人】
すぐさま「距離を取って置こう」と言うほどの距離を取るのが大好きな奴です。