アオモリポルポ(2)
「シャシャー!」
そう言いつつ、10本の足から大量の墨を吐きつつその反動で宙に浮かびながら、僕達に向けて顔の口を向けるアオモリポルポ。そしてその顔の口から大きな墨の塊を発射する。
「デカい!」
避けきれないと思った僕は、大きな土の壁を作ってその墨の塊を防ぐ。墨の塊は土の壁を大きく揺らすようにして、中心部分がこちらへと大きく広がるような形でなんとか防ぐ事が出来た。
「危ない!」
そう言って月裏さんが火炎の翼を広げて物凄い速度で滑空しつつ、僕を手で掴んでそのままその場を離れるように飛ぶ。そのすぐ後に、僕が隠れていた土の壁の後ろに、土の壁を破って墨の塊が僕の居た場所を真っ黒に染め上げる。恐らく僕が壁で視界を閉ざした時に、もう1発墨の塊を放っていたのだろう。あそこに居たら、あの墨の餌食になっていた事だろう。
「助かったよ、月裏さん。ありがとう」
「い、いえ……」
まぁ、たゆんたゆんとした美しくて大きい胸が僕を支えるためか、僕の背中にぎゅーっと押し付けられているが、そんな事を考える間もなく、僕の方へと再び照準を付けるアオモリポルポ。
「ダメ! ダメったらダメ!」
姫がそう言って火炎を纏った札を、アオモリポルポの足の根元めがけて斬る。札によって斬られる2本の足。
2本の足を失って推進力を失ったためか。それとも、その足から燃え広がった炎なのか。それともその両方からか、分からないがアオモリポルポは地面へと落ちる。僕をめがけて放たれた墨の塊は、推進力を失った際に照準がずれたのか、自らの真上へと発射されていた。
そして地面へと落ちるアオモリポルポ。そして真上に放たれた墨の塊は、そのままアオモリポルポへと落ちていく。
「シュー! シュシュ!」
アオモリポルポはその軌道を逸らそうと、8本の足から墨を吐いて対応しようとするが、
「―――――水よ、球体の形となりてかの者の視界をふさぎ給え!」
紅葉が水の魔法を球体の形に丸めて、それをアオモリポルポの身体へめがけて発射する。発射された水の球はアオモリポルポの眼に当たり、苦しんでいるうちにその物の顔へと墨は落下した。
「シュー! シュ、シュシュシュー!」
墨の猛毒によってアオモリポルポが怯んでいる隙に、ユリーは氷を纏った長刀・アイスバーグをその墨に投げ入れる。液体の墨は氷へと変わっていき、そしてアオモリポルポの顔は氷漬けになっていた。
「チャンス!」
僕はその間に聖剣を持って、アオモリポルポの足を切断。紅葉も魔法で、そして月裏さんも氷を纏った鳥となってアオモリポルポの足を切断する。切断といっても、全部を根元から斬ったのではなく、タコの口のような部分を斬っただけだ。その下には墨を放つための管のような物があったが、紅葉と月裏さんによって管を氷にて縮める。
口のような部分がないから、大きく墨を出す事は出来なくなっているとは思うが、念には念を入れてだ。
「シュー!」
アオモリポルポが自力にて氷を破った時には、もう既に遅かった。足に付けられたタコの口は斬られていて、管も凍っていて墨が出せない。おまけに顔にある口は凍っているうちに、ユリーが斬っていた。
既に満身創痍の状態のアオモリポルポ。
「大火炎の札!」
姫が投げた札は、先ほどまでとは比べものにならないくらい、大きな火炎の塊となってアオモリポルポへと向かっていく。アオモリポルポは自身の恐怖に怖じ気ついたのか、地面を蹴って逃げる。逃げた先には先程まで頭に被っていた苔だらけの壺があった。
「……逃さない」
ユリーがそう言って、アオモリポルポの足に長刀・アイスバーグの紐を巻きつけて、アオモリポルポの元へと向かっていく。向かっていく間にもう1本の方の長刀・ボルケーノに炎を纏わせていく。
そしてアオモリポルポが苔だらけの壺へと辿り着いていたが、ユリーはもう既に辿り着いていた。そして苔だらけの壺の中に隠れようとしているアオモリポルポへと、ユリーは長刀・ボルケーノを自身の上に持ってくる。
「……火炎双撃!」
そうやって攻撃しようとしたユリーの身体を、壺の中から発射された墨が彼女の身体を押し出していた。
「……があっ!」
地面へと落ちた痛みと、猛毒の苦しみで白いジューっと溶けるような音と共に激しく悲鳴を上げるユリー。
「だ、大丈夫ですか!」
慌てて向かう月裏さんに、壺の中から真っ黒な墨が勢いをつけて向かって行く。
「……!」
それを見たユリーが痛む身体を無理矢理動かして、月裏さんを弾き飛ばす。そしてユリーは真っ黒な墨を受けていた。
「ユリー! くそう!」
ユリーが墨の毒にやられる前に、あの壺の中に居るモンスター、アオモリポルポを倒さないといけない。しかし、あの身体の、どこから墨を出しているんだ?