リリーベルとの交渉術
その夜。僕はリリーベルさんの居る部屋に来ていた。勿論、【伝説の魔力球の試練】でお互いに協力しようと思った事では無い。あれは結局、考えても分からなかったから。それとは別にリリーベルさんに呼び出されたのだ。
「……【伝説の魔力球の試練】とやらは結局分からなかったよ。ナナミさんは考えてはくれるけれども、はっきり言って彼女は頭が良すぎると言う訳ではないですし。そしてナギサさんは教えてはくれませんしね。まぁ、それとは違うんだけれども……そっちは?」
「こっちも似たような物ですよ」
「そうですか」と納得したようなリリーベルさん。そして1枚の書類を取り出す。
「【拳銃教官】、ミコト・デスルード。彼女からの報告書。どうやら【反逆勇者】である豆羽ユウトと、【教会軍】の幹部、賢者のワルダックが明日、この街の近くの森にて密会を行うみたいです」
【反逆勇者】と【教会軍】の幹部の2人がこの街の近くの森で密会を行う?
「冗談はきついですよ。こんな所で会ったら僕達に、【魔王軍】に見つかってしまいじゃないですか。普通だったらもっと見つからない場所で密会を行うのでは?」
「まぁ、普通ならそれで正解よ。けどね、彼らはビップ中のビップ。片方は【勇者軍】のリーダー、【反逆勇者】の豆羽ユウトよ。だから、普通の場所で見つかったら確実にユウトは【勇者軍】からの信用をかなり失うわ。リーダーの信用を失うと、その軍は確実に崩壊するわ。
【教会軍】も幹部クラスの賢者が今問題を起こすのは問題よ。
だから、【魔王軍】の側で密会を行うのよ。もし、自軍に見つかったら敵対調査、【魔王軍】に見つかったら戦闘と言う言い訳が出来るしね」
意外と考えているような……いや、それだったら普通に見つからない場所でやれば良いのにな。
「魔法とかで探索された時用にここでしておくんですよ。仮にも幹部とリーダーが位置情報が分からないと大変でしょうよ」
「あぁ……そう言う事」
「で、【魔王軍】としてはそこで情報を手に入れたいと言う気持ちもありますし、2つの軍に好き勝手はさせません。けど、【魔王軍】だけだと相手の思う壺。ですから、無関係な朝比奈揺さん達に同行をお願いしたいんです。もしかすると、豆羽ユウトを倒せるかもしれないので」
そう……か。
「分かりました。他の皆にもそう言っておきますね」
「お願いします。豆羽ユウトを倒してこの、くだらない戦争を終わらせるためにも」
「はいはい。了解しましたよ、リリーベルさん。ではお互いに【伝説の魔力球の試練】、頑張りましょう」
「そっちも、ね。こっちにはまだあなたには見せてないスキルがあるんだから」
そう言う彼女に遠慮しつつ、僕は部屋を後にした。
「……しかし、リリーベルさんの能力、か」
そう言えばリリーベルさんはどう言う能力なんだろうか? 良く分からないが、まぁ、そのうち分かって来るのだろう。それで豆羽ユウトが倒せれば良いんだろうけど、それで倒せれば僕達に頼んだりはしないだろう。
……まぁ、この戦争を終わらすためにも頑張って貰いたい。いや、お互いに頑張るとしよう。