真っ白な球
「この試練をクリア出来た場合は私が持っている【烈】の九字の印を渡しましょう。大丈夫ですよ、姫さんじゃないと定着はしないでしょうが、それなりの効果は得られますので」
そう言いつつ、ナギサさんは懐から真っ白な球を2つ取り出した。そして僕とリリーベルさんに渡す。
「【伝説の魔力球の試練】。その真っ白な球に魔力を込めて、虹色になったら勝ち。以上」
はいはい、もう良いですよねと言って帰ろうとするナギサさん。……と言うか、【在】はどうなったんだろうか?
「ちょ、ちょっと……【在】はどうやって渡すんですか?」
「……私達はナギサさんが持つ2つの九字の印、【烈】と【在】を貰いに来たと言うのに……」
紅葉とユリーが帰ろうとするナギサさんにそう言葉を発す。
「これは本来は正当な【試練】ではないのですよ。ただまぁ、私が日向ラファエル様から頼まれたのはある試練をやる事と勝った人に九字の印の2つを渡す事だけです。別にそれを二分割して渡すのは、私の自由です。言うなれば現場の判断……とでも言いましょうか」
そう言いつつ、「じゃあ、後はお任せしますね」と言って今度こそナギサさんは帰って行った。
僕は彼女から貰った真っ白な球を見る。それはどこからどう見ても、ただの真っ白な球だった。
「私にも貸して貰えますか?」
と、紅葉が言うので真っ白な球を渡す。そして質感を確かめた彼女は、その内部に微量の魔力を流して反応を見ている。
「……内部にも何も存在しない、本当にただの真っ白な球ですね。少なくとも一定量の魔力を加えれば色が変わると言った機能も無さそうですし」
「……魔力を込めて虹色になるのを待つしかない」
「と言う事になるな」
どれくらい魔力を込めればいいか分からない上に、虹色と言うこれまた難解な色を指定して……。赤や青だったら、『炎』や『水』の魔力を込めれば良いと思うのだが。虹色か……。
「色々な属性の魔力の増減、もしくは専用スキルでしょうか? 専用スキルだとすれば、私やあなた方が持っているスキルは無いとして、とある一定条件下で手に入るスキルでしょうか? どちらにしても、負けられませんね」
と、リリーベルさんは言う。
「協力したいのは山々ですし、姫さんに関してはこちらにも少しばかりの罪悪感があります。しかし、それ以上にユウトを倒すために戦力が足りないんです。あなた方に渡すという手もありますが、一応念のために、ね。それにどうやら私達はお互いに協力出来ないみたい。ユウトはなんとしてもこちらで始末しておきたいんですよ。あの教会のようにね」
あの教会の事とは、教会が民衆を率いれずに強者を募っている事。本来であれば、民衆を仲間にすべきなのに戦う者を入れているのは勇者ユウトが元教会の陣営である事を隠したいのだろう。出来れば勇者ユウトがそうである事を悟られないまま、ユウトを倒したいんだろう。そのために戦闘の者を入れているのだろうね。
……まぁ、魔王軍の方が民衆を中に入れている分、マシだと言う物でしょう。
「では、早速虹色にするために魔力を込めるため、部屋に籠ります」と言ってリリーベルさんは帰って行った。そして部屋を出ると共に、天井からスタッと1人の人物が降り立った。【ナギサ・クジョウ】の片割れ、ナナミ・クジョウさんである。
「いやー。【魔王様】にはばれてたみたいだね」
あっけらかんと言うナナミ・クジョウ。彼女が言うには、ナギサに頼まれて僕たちが【試練】をお互いに解こうとしたら真っ白な球を破壊して立ち去るよう頼んだらしい。
「【試練】が何だとか、九字の印が何なのかも知らないし、興味も持ってないよー。けど、ナギサが頼んだらそれをやる。お互いに事情も説明してないけれども、通じ合う。それが【運命】的なペアだよ! 私に加護をくれた神様もそう言うと思うしね!」
そう言って、ナナミさんも部屋を出て行く。
残ったのは僕と紅葉とユリー。そして手に持った真っ白な球だけ。
【試練】をリリーベルさんに解かれる前に、僕たちはこの真っ白な球を虹色にしないといけないらしい。とりあえず姫と月裏さんの所にて僕達は考える事にした。
【リリーベル・フランベル】
【魔王】。【魔王】を頼まれたり、弟が【反逆勇者】になったりと一番苦労している人物といっても過言ではない。九字の印を使って、【反逆勇者】に止めをさすため、【伝説の魔力球の試練】については意欲的。
【ナギサ・カワサキ】
本来であれば、【烈】と【在】を渡すために別の試練を考えていたが、面白いという理由で新たに自分で試練を作り出して、朝比奈達とリリーベルにやらせた。アイスバーンさんと違って【試練】に対してはあまり乗り気ではないらしい。
【ナナミ・クジョウ】
ナギサの相方。【運命の神の主神】、戦恋メモリアルから加護を貰っています。