魔王との邂逅
【魔王】であるリリーベル・フランベルは魔物達、魔族達を取りまとめる王であるが、しかしかと言って選り好みをせずに戦士を集めているらしい。いや、言わば救いを求める者ならば誰であろうと受け入れていると言うべきか。
【反逆勇者】の所は強者優先主義、【教会】の所は人間優遇主義が取られているため、何も考えずに民を集めているのは【魔王】だけだろう。
そして便宜上幹部的な扱いを取るべき者が居た方が戦局を有利に進められるとの事で、【魔王軍】には4人の幹部が居る。そのうちの2人が【ナギサ・クジョウ】のナナミ・クジョウとナギサ・カワサキの2人だと言う事だ。
「他にも一応、【岩窟巨人】のアイザック・エルフィード、【拳銃教官】のミコト・デスルードなどが居るんですが、とりあえずその2人を合わせての便宜上の四幹部としていますね。もしもの時はこの四幹部と私の5人で敵大幹部を倒すつもりでいますよ」
と、リリーベルさんが説明する。
「【勇者軍】は基本的に強ければ傭兵だろうが何だろうが、使う主義なのでそう言う幹部は居ません。【教会軍】はそもそも本格的に相手にした事が無いので分かりかねますが、会えば粘着質に襲って来るでしょうね。うちの軍隊は彼らが大嫌いとしている魔物なり魔族なりが大勢いるので」
「僕はそう言う気持ちが無かったんだけど、やっぱり戦争ってつらいんですか?」
「つらいに決まってると思いますよ、朝比奈さん」
「……お父様もいつもつらそうにしていた」
僕の質問に横に座っていた紅葉とユリーがそう話を茶化す。姫と月裏さんは揃って下で子供達の面倒を見ている。この軍隊、意外と軍人よりも民間人が多いらしい。民間人の数で言えば3つの軍の中でも最大になるんだとか。
「魔王なのにね、一応……。なのに、民間人を一番守っているのが私達って言うのは流石に、ね」
一旦お茶を飲んで話を途切ったリリーベルさんは、自らの弟、勇者軍を率いる【反逆勇者】のユウト・フランベルの名前を出す。
「この戦争は私の弟、ユウトが起こした戦争なの。私と【教会軍】は仕方なく相手する為に戦力を整えている内にこうなってしまっただけ。ユウトが止めさえすれば後はなし崩し的に戦争を終結する事が出来る。
今は【勇者軍】に【岩窟巨人】のアイザックが率いる軍を向かわせてはいますが、【教会軍】に襲われないようにするために【拳銃教官】のミコトに待ったをかけさせています」
「……大変な時期に失礼します」
「いや。久しぶりに懐かしい顔に会えて良かったよ。
――――――で、どうしてうちの【ナギサ・クジョウ】の2人に会いに来たのかを聞きたいんだけれども」
「実はですね……」
そう言って、紅葉が淡々と事情をリリーベルさんに説明していく。まぁ、ユウトが姫を狙っていたし、大体事情は分かりやすく頭に入って来たようです。
「……うちのナギサが姫さんの大切な物を持っていた、か。まぁ、彼女はうちの四幹部の中でも、【形泥棒】と言う字名を持っていますし。分からなくもないわね。今もこうやって―――――――」
そう言って、彼女は天井に向かって見えない何かを振りかぶる。振りかぶった物は天井で跳ねかえったようで、何かが当たった音と共にドサッとナギサさんが床へと落ちて来る。
「イ、イタタタ。痛いですね……。魔王様、いきなりは止めてくださいよ……」
「こっそりと聞き耳を立てて、聞いていたあなたが悪い」
「ハハハ……返す言葉もありません。しかし、ニアミスとは言っても私の名前を当てたのにもびっくりだったけど……まぁ、朝比奈揺さん達に対して【試練】をやらないといけないんですよね。でもまぁ、私はアイスバーンさんと違って【試練】に積極的ではないんですが……。
……! そうだ、良い事を思いつきましたよ」
そう言って、楽しそうに犬耳を揺らすナギサさん。
「では、始めましょう。ナギサさんによる試練、【伝説の魔力球の試練】。試練を行う人物は―――――――朝比奈揺さん達とリリーベルさんです」
【四幹部】
【魔王】であるリリーベル・フランベルが便宜上に作って置いた4人の幹部。別名は四天王と言う。
【岩窟巨人】アイザック・エルフィード。【拳銃教官】ミコト・デスルード。【光速獣】ナナミ・クジョウ。【形泥棒】ナギサ・カワサキの4人組。
【伝説の魔力球の試練】
ナギサ・カワサキが朝比奈揺達とリリーベル・フランベルに出した試練。本来は朝比奈揺に九字の印の2つを商品とするのは、別の試練だったが面白いと言う事で【烈】のみを商品とする事で試練を行う事になった。
ちなみに今までこの試練をクリアした者は全体の1%にも満たない。