アイスバーン、困惑する
【修練の実】。
その効果は服用した者の能力をほんの少しだけ上げる実。レベルが上がる訳でも、新しい能力を得る訳でもなく、ただただ基礎能力を上げる実。
それを1人1つ服用したくらいで、ましてや1人で5つ服用してもなお、私の勝利は揺るがない、と彼らと戦っているアイスバーンは思っていた。思っていたのだが……
(何、これ!?)
とアイスバーンは思っていた。
彼女の能力は両手と両足に付けた蚊のような長い口、【蚊口】から自身の血液を注入する事によって。
熱い血を注入して発展させ。
寒い血を注入して衰退させ。
無機物の発展衰退を操る能力である。
前提として自身の年齢分しか発展、衰退出来ないが、500年以上の年齢を誇る自身の年齢からしてもこの能力は汎用性の利く良い能力だと思う。そしてそんな能力で彼らを圧倒するはずだった。
「名付けて、衰退火山銃!」
アイスバーンは火山の噴火から出て来た石灰岩を銃弾の形に錬成して置いた物を、姫めがけて放つ。銃から完全に距離を取った所で溶岩へと衰退させて、相手にぶつける技だ。衰退して元に戻った熱い溶岩は、姫めがけて押し寄せる。
「札術、溶岩操作!」
しかし、彼女は札を使って溶岩を操り、自分の元へ溶岩を受けないようにする。操っているというよりかは、自身の元へ溶岩が来ないようにするのが精いっぱいという形だが、それでも姫は防いでいる。
「名付けて、小型重量機投げ!」
アイスバーンはユリーことユリエル姫にめがけて小型機械を投げつける。あの技はユリーを倒す時に使った技と原理は同じだ。小型化した機械を重量のみを衰退させる。昔の機械ほど、どうしても重くなってくるのだから。今回は縦に落とすのではなく、投げの威力を強くして相手まで投げる技だ。また、今回は斬られる可能性もあるので、頑丈さだけは厳重に最高の頑丈さになるよう発展しておいた。
もう1度倒されろと言う意味で投げられたその攻撃は、
「……二刀流、炎氷」
ユリーは2つの刀でその機械を一刀両断する。かなり硬いその機械のボディを斬ったからか、彼女の刀は所々刃こぼれをしており、彼女もまた肩で息をしている。
「炎葬術、加速域!」
「火炎よ、わが名に従いて敵を焼き払いたまえ」
月裏さんが炎の翼を持ってアイスバーンへと迫り、紅葉は火炎の魔術を当てようとアイスバーンへと狙いを定める。
「バカめ、蚊の速さをなめるな」
そう言いつつ、アイスバーンは不規則な動きをしながら速度を上げて2人から逃げる。規則的な物ではアイスバーンの速さはそこまで速いという訳ではないが、不規則的な動きを作ると彼女の速さはとにかく速い。
とてもじゃないが当てられないほど速いという訳ではないが、かといって当てられるのに苦労する物だった。
しかし、
(な、何……!?)
月裏さんは不規則な彼女の動きについて来ており、そのまま彼女を攻撃。さらにすぐさま不規則的な動きをしたのにも関わらず、紅葉の放った火炎攻撃は全て命中していた。
「な、なんなの……こいつら。私を倒すために神経を尖らせてる? いや、だとしてもこの鬼気迫るような迫力は何!?」
それは彼らがアイスバーンの手によって滅ぼされた世界を見たから、あんな世界にしないために鬼気迫るほどの迫力を出すくらい気合を入れているからなのだが、アイスバーンは彼らがいきなりそれほどの集中をする理由が分からなかった。
「―――――――止め!」
そう言って、朝比奈揺もまたここまで跳んで来てアイスバーンへと刀を振り上げている。
「闇の引力を反作用させて、空を蹴ってここまで跳んだ!? そんなの、扱いが悪かったら死にますよ!?
なんなんですか、あなたがたは!?
そこまで気合を入れるような物でも無いでしょうに、どうしてそこまで気合を入れる事が出来る!? 鬼気迫る迫力を出せる!? 【修練の実】を食べたからと言ってありえないほどの性能を出す事が出来る!?
分からない、絶対に分からない!」
アイスバーンはそう叫びながら、朝比奈揺の身体に【蚊口】をぶっ刺す。
「名付けて、発火血液、劫火バージョン!」
アイスバーンは自身の持っている全ての燃えるような熱い血液を朝比奈揺に流し込む。朝比奈揺の身体は全身がもう形の輪郭すら分からないくらいに燃え出した。
「や、やった!」
残っているのは【冷えた血液】だけだが、それでも朝比奈揺さえ倒せば後はなんとかなると思って微笑んだアイスバーンの身体を、
「二剣流、聖大剣斬り!」
火炎を纏った朝比奈揺が斬る。
「……! 全身を燃やしてもなお、向かってくる!? な、なんなの……いったいなんなんだよ……」
アイスバーンはそう言って、血を流しすぎて絶命し、後には【皆】と【陣】が書かれたリンゴが2つ落ちていた。