ナギサさんとの約束
「ここはアイスバーンさんと君達が戦ってから3年後の世界。アイスバーンによって負けたと言う世界から連れて来られた君達ですよ」
そう言いながら、ナギサさんはスケッチブックを取り出す。
「時間ネタは色々と収集がつかなくなりますから、あまりやりたくはないんですけれどもね。簡単に言いますと、この世界はアイスバーンさんによって滅んだ世界、ですかね。……間違えました、滅んだと確定した世界ですかね。これは既にもう変えようがない世界です。まぁ、アイスバーンさんをなんとかすれば良いんでしょうが、そのアイスバーンさんが居ない以上は仕方がないと言うか。
私の今の能力は、時間を操作して過去のあなたがたをこちらに持って来ただけです。本来であれば、私が行けば良いんですが。生憎、過去から持ってくる事は出来ますが……いえ、とにかくこちらへは持って来れますが、こっちからは送れないんですよね」
一生懸命、スケッチブックに何かを書いて行くナギサさん。
「つまり、そっちからは来れないと言う事ですか……」
「今だってこの九字の印のリンゴを使って、ようやく特定してこちらに連れて来た。と言う程度ですから」
「それ、九字の印! 私に返して!」
「これは返せない……。と言うより、姫さん。あなたは九字の印の文字順にしか貰えないんですよ。ですから、私の物ではあなたは使えない。……間違えました、まずはアイスバーンさんが持っている九字の印でないとあなたは取れない。つまり、この九字の印のリンゴは使えません」
「えぇー!」
と文句を垂れる姫。
「……じゃあ、私が預かります。姫ちゃんが持てないのなら、仕方ありません。ならば、私ならば」
「なっ……なるほど! そ、その手が……!」
と言うユリーの発言に、納得する月裏さん。しかし、首を振って否定するナギサさん。
「今、あなたがたはこの2文字の印の力によって、ぎりぎりこちらの未来へと持って来た訳です。けれども、このリンゴが無いと元の世界には帰れませんよ? それでも良いのでしたら、よろしいですが?」
と聞き返す彼女に僕達は何も言えなかった。
「私の今の能力は時間操作と空間移動の合わせ技によるタイムワープ。とは言っても、この能力はアイスバーンによって絶望した世界で、偶然手に入れた能力。だから、止められなかった。彼女の暴走を。……間違えました、その頃の私はなんとかなると思ってたんでした」
「……で、この衰退した世界へとしないために、僕達は元の時間へと戻されると」
「正確には朝比奈揺との命をかけた決戦を提案している前まで、時を遡る。そして、あなたがたは戦う前に、【修練の実】を食べる。あれは良い、あれを全員が食べる事によってアイスバーンへと勝てる可能性が広がる」
「修練の実……。そう言えば、出していた気がする」
『では、あなた方には【多次元相撲の試練】の報酬といたしまして修練度を一気に上げる皆様分の【修練の実】をプレゼント……』
そう言って出した後、再戦をあちらから申し込んできた。その時は皆が倒れていて……それで僕だけで受けた。
「1対1と言うルールは無かった。だから、あなたがたは彼女が言うルール通り、5対1で倒せば良い。そして、手に入れれば良い。【皆】と【陣】の九字の印を」
「あ、あなたはどうするんですか? これから?」
と月裏さんが言う。
「さぁ……ね。あなたがたが勝負に勝ったらこの世界の私は消えるかも知れない。……間違えました、間違いなく消えます。
だから、あなたたがたは普通にすれば良いんですよ。アイスバーンを倒した後も、旅を続けるなり、その世界の私にあうなり……ね。
さて、そろそろ元の世界にお帰り願います。
では、皆様。世界を……いえ、間違えました。未来を頼みます」
そうして僕達は白い光に包まれて、気を失うのであった。
【ナギサ・クジョウ】
【烈】と【在】の2つを日向ラファエルから預かったモンスター。前世はアイスバーンと同じく、人間だったと主張する。能力は時と空間を同時に操作する【英霊召喚】。
持っている物と過去の人間と深い関わりのある人物、そのパーティーを呼び寄せる能力。今回は【烈】と【在】の九字の印を使い、朝比奈揺のパーティーをアイスバーンによって滅ぼされた3年後の世界へと呼び寄せた。
絶望に満ち溢れたこの世界で手に入れた能力であり、元々はそう言った能力では無かったらしい。
アイスバーンと違い、ルールに厳しいと言う訳では無く、『命あっての物種』と言う考え方をしている。また3年前から魔王側の軍勢に入っていたらしい。