滅びた世界の真相
「世界が滅んでる……? どう言う事……?」
僕は訳も分からず、ナギサさんに聞き返していた。
世界が滅んでるって、どう言う事? それに一番僕が知っているって……はっ! それって、もしかして……。
『……ちなみにペナルティは?』
『世界の終焉』
あの時の、アイスバーンの言葉。けれども、試練は確かに僕の勝ちだった、勝ちだったはずなのに……。
「……ようやく分かりましたか。いえ、ここは気付いてしまったと言うべきでしょうかね。そうです、姫さん、紅葉さん、ユリーさん、そして月裏さん。
この世界はアイスバーンによって、壊されてしまった世界の成れの果てです」
「「「「……!」」」」
ナギサさんの言葉に4人は絶句する。そこに僕は言い返す。僕はちゃんとあいつの、【多次元相撲の試練】をクリアしたと。しかし、ナギサさんは
「では、彼女を殺したんですか?」
と言う。殺す……そう言えば、挑んだだけで僕は彼女の、あの蚊のような真の姿に負けて……。
「それですね。アイスバーンの一番厄介な点。彼女はルール上負けた事を無かった事にしようとする性質があるんですよ」
「無かったと言う事は……つまり、もう1度戦って勝つと言う事ですか?」
「ずるい! ずるい、ずるい!」
姫と紅葉の2人の言葉に「全くあの糞野郎はその通りです。……間違えました、糞虫ですね、蚊だけに」と言う。
「……あのモンスター、アイスバーンさんは倒さないといけないんですか?」
「えぇ、アイスバーンの一番厄介な点はその1点ですね。負けたとしても何かと理由をこじつけたり、何かと賞品を付けて再戦を挑み、勝って誇る。まぁ、負けず嫌いなんですよ、彼女は」
……負けるのが嫌だから、敗北した僕に再戦を申込み、なおかつ僕に勝って、当初の予定通り世界を滅ぼした? 無茶苦茶だ。どこがルール好きだ、ルールを破ってるじゃないか!
「まぁ、彼女はルール好きですよ。……間違えました、ルールの穴を見つけるのが好きなんですよ。様々なルールの穴と言う穴、ぎりぎりルール上は反則にならないような、そんな事を見つけるのが好きなんですよ」
「……! そ、そう言えば、地面を土くれに変えて、攻撃する事も偉いあっさりと認めていました!」
ルール好きならぬ、ルールの穴を見つけるのが大好きなモンスター……。僕はそんなモンスターの提案にまんまと乗ってしまったと言う事か。
「モンスターの思考を人間の価値観で考えてはいけないんですよ、そもそも。なにせ、モンスター……つまり人間では無い人外なんですからね。どれだけ形が似ていようとも、どれだけ人のような思考をしているにしても、人外であるモンスターに理屈も、信念も、そして感情も、人間とは違って来るんですから」
「だいたい……分かりましたが、朝比奈さんには聞きたい事があります」
と、くるりと、僕の方を振り返る紅葉。何だか睨み付けているご様子で、非常に嫌な予感がする僕はゆっくりと後ろに下がる。
「な、何かな……」
「まず、第一に試練に勝ったのに、どうして再びアイスバーンさんの挑戦を受けたのか。そして、あの方が持っている【烈】と【在】と書かれたリンゴは何なのか……。お聞かせ願えますか?」
その質問に他の3人も納得したようで、僕はたじろぎながらもナギサさんに助けを求めるが、
「あいにく、人外だからね。人を助けるのが人として当然の行為だと言う説法は通じないよ。あと、助けない方が面白そうです」
と言われて、孤立無援の状況だと悟り、僕は結局4人に話した。
【多次元相撲の試練】をクリアしたら、再び再戦を申し込まれた事。
アイスバーンの能力が無機物を発展、衰退させる能力である事。
アイスバーンを倒したら、増設港街テセウスの復興、そして姫の九字の印の2つ、【皆】と【陣】のリンゴを返すと言われた事。
そして敵の能力によって、発火、そして凍結された事。
僕は自分の知る情報を皆に話したのであった。敗北なんて恥ずかしくて言い辛かったけれども、仕方が無かったんだ。あの4人の雰囲気からは。
「ゆらぎん……。私のために……」
「姫ちゃん、よ、良かったですね~」
「……ユラギは頑張った」
そして姫、月裏さん、ユリーからは頑張ったねと頭を撫でられて、正直照れくさい。顔が赤い……恥ずかしい//////
紅葉はと言うと、
「今後、どうすれば良いでしょう……。私達は負け、世界は半分崩壊してしまっていますし」
と冷静に状況を分析しなおしていた。流石、うちのパーティーの頭脳役である。
「今の世界は、アイスローカル・バーンアーバンの能力によって世界の主要都市の文明を強制的に急速的に衰退して起きた世界です。この世界の文明は著しく衰え、そして多くの街が姿を消した。
今は【反逆勇者】となった豆羽ユウト率いる暗黒勇者軍、【魔王】となったリリーベル・フランベルが率いる魔王軍、そして世界を元に戻そうとしている教会軍の3つの大きな派閥が、世界を取り合っていますね。私は前々から【魔王】にお世話になっているので、魔王側にいますが……」
ナギサさんはそう言い、同時にアイスバーンの行方は分からないと答えた。そもそもこの世界では無い神の世界に帰って行った可能性さえもあると。
「打つ手なしか……」
落ち込む僕らだったが、ナギサさんがこちらを向き、
「……まだ君達には策がある。着いて来たまえ」
と言い、僕達を丘の上へと連れて来た。