Periods of Ebb and Flow
そうして、僕達は無事だった宿屋に金を払ってその晩は泊まる事にした。『鳩の時計』は主人も場所を協力したとして、アイスバーンさんにまとめて葬られてしまったから『鳩の時計』は宿屋として使う事が出来なくなってしまったからである。そしてその晩、泊まる事にしたのは『星空の里』と言う宿屋の主人が大の星好きで有名で、壁や天井に星空を描かれたのが特徴の宿屋である。
「……うぅ」
姫はあの光景が、全員が血塗れの状態で斬られてしまうと言う状態を見てしまって、少し気持ち悪くなってしまっているのだろう。ユリーと紅葉は一見大丈夫そうだけれども、ちょっとショックを受けているようで少し話しかけないでくださいって言っていた。そして僕はと言うと、
「……おぇー」
――――――トイレで吐いていた。
当たり前だ。いきなり目の前であんなにも人が死ぬだなんて……しかも、大量の血を吐きだした状態でなんて、僕は耐え切れずに吐いてしまっていた。
「うぅ、つらいよ……」
あんな光景、流石に厳しい。しかもその光景を行った彼女に軽く口止めを、と言うかルール違反をしないように言われたし。本当に凄い。……凄い気が落ちた。
トイレから出ると、そこには顔を落とした月裏さんが立っていた。
「月裏さん……?」
「……」
月裏さんは顔を少し下に向けた状態で、僕の前に立っていた。
「……ようやく、神の世界にある私がアイスバーンさんの正体を掴みました」
と、月裏さんは少し落ち込んだ声で言う。
「……そうか」
僕も同じように少し声を落とした状態で、声を発していた。それを聞いて月裏さんは静かに語り始めていた。
「……飼育の神の主神、豆羽ミラキジェスさんが作っていた書籍に情報が残っていました。
アイスバーンさん。本名、アイスローカル・バーンアーバン。名前の意味は本人曰く、『氷のような田舎、炎のような都会』。御年547歳。
彼女はモンスターになる前は、ただの人間でした」
「に、人間?」
「はい。『元人間である』と、豆羽ミラキジェスの本にはそう書かれていました。そして彼女の能力についてですが、判明しました。彼女の能力は文明を強制的に発展させたり、衰退させる能力です」
「文明を発展? 衰退?」
どう言う能力かさっぱり想像がつかないんですけれども……。
「詳しい説明をお願いします」
「……生命体以外の物体であれば、自分の年齢分その物体の進んだ姿、衰退した姿にする事が出来ると言う能力です。具体的に言えば、彼女が手に持った銃弾が彼女の年齢である547年分発展させたり、547年分衰退する事が出来ると言う事です」
なんだか、さらに分からなくなったんですけれども……。547年と言うのが全然想像がつかない。
「す、少し分かりづらかったですかね? 銃も最初から今のように連射式の銃ではないですよね? ですから、その銃を100年くらい文明を発展させた姿で攻撃出来ると言う事です。
この街並みも多分、彼女の能力です。街の一部を発展させて新しい街並みになったり、衰退させて古い街並みになったりしてるじゃないですか。とにかく自分の持つ武器をグレードアップしたり、相手の武器をグレードダウン出来るらしいです」
「つまり……発展と衰退を操る能力を持ったモンスターと言う事ですか」
「そ、そう言う事です」
そして、その能力が人間には効かないのは『文明を衰退、発展』と言う能力であって、『時間操作』ではないからか。ややこしい……。
「そして、どうしてあんなにまでルールに拘るかは……」
分かったのかと聞く前に、
「両親が信号ルールを違反した車に轢かれて死亡。他の親類も社会のルールを違反した殺人によって死亡。とにかくルール違反で不幸な目に遭い続けて、最後は自分がルールを守っているのに、相手がルール違反をして殺される。異常なまでのルール違反者の誕生した。と言う事らしいです」
と、月裏さんが長々と説明してくれた。とりあえずありがとうと言っておく。
「と、ともかく……明日は私が戦います。相手は無手の方が戦いやすいと思うので」
と、彼女は言って手を見せる。
そりゃあ、僕とユリーは刀、姫は札、紅葉は杖と武器を使った戦法で、月裏さんは無手と言うか殴って攻撃する形だけれども……とりあえず、気を付けるようにと言ってその日は休んだ。
――――――――その翌日、僕達はただの地面に寝転がった状態から目を覚ました。
『periods of ebb and flow』=『栄枯盛衰』