テセウスとアイスバーンとの契約
残酷描写が入ってしまうので、注意してください。
20年前、まだここに何もないただの田舎だった時。
その頃、この街の先人達はここに新たな港を作ろうとした。それはその当時の国王、当時のアリエル王はここを中心として、輸送経済、漁業経済などの流通の中心地としたかったんだそうだ。
魔法である程度、街として見られるくらいのある程度の街並みを作り上げていた頃、
―――――――彼女、アイスバーンさんは現れた。
「彼女はこの街を作った先人達にこう提案してきた。
『神の命にてこの街の発展を約束しよう。ただし、20年の間にこの私を倒せなかった場合、この街に大変な事が起きますよ?』と言ったらしい」
そして、先人達はそれを承諾した。
それからテセウスは瞬く間の内に急速に発展して行き、僅か半年くらいでこの世界の流通の中心地になっていた。しかし、それと同時にこの街で異変が起き始めた。
「建てたばかりの建物がすぐに老朽化で取り壊さなければならなくなってしまった。それ以降も建てた建物がすぐに老朽化で建て直しをしなければならなくなった。そこでようやくあのアイスバーンさんとの契約を思い出した先人達はこれをなんとかするために、アイスバーンさんを問い詰めた。その時、彼女はこう言ったんだそうだ」
『これも試練です』
アイスバーンさんは自分を殺そうとした連中を身体の半分の機能を全て破壊して、文字通りの意味で半殺しにした連中に言った言葉である。
「それ以降、ルールに乗っ取ったやり取りで我々は戦い続けた。アイスバーンさんは異常なまでにルールに拘るから。
『アイスバーンさんを倒せた段階でこの試練をクリアとみなす。何人で攻めても構わない。ただし、この街に自分達の手で呼んできていない連中はこの試練に参加する事が出来ない』。だから、あなた方の力は借りられなかったんです。一度、この街に偶然立ち寄った屈強そうな冒険者に街の長が意を決して手伝って来るよう、頼んだんですがその瞬間、ルール違反と見なしてアイスバーンさんが街の長を殺して……」
「そうか! 僕達は……」
彼らの意思では無く、僕達自身の足で来た。彼らの思惑に関係なく。
「本来ならば勇者殿をお呼びしたかったんですが、その勇者とは連絡がつかず……。さらに魔王の出現で呼んでいた強い人達は全てそっちに行ってしまって……」
なるほど。
勇者(偽物だったけど)、ユウト・フランベル。
魔王、リリーベル・フランベル。
それがこんな形で関係して来るのか。
「そこで、あなた方も同様の試練を行っているみたいなので、共闘は出来ずとも、せめて情報交換を―――――! あの、憎きアイスバーンを倒すために!」
そう女性が強く言い放った瞬間、彼女の身体を刃が貫いていた。
彼女はゆっくりと自分の腹を見て、そして絶望しきった表情を作ってそのまま声もなく絶命した。
「ダメじゃないですか、ルール違反です。
あなたは二度ルールに違反した。
1つ目は私の事をさん付けしなかった事。それに関しては、私が無言のプレッシャーで皆さんに与えていたですから、「今度からさん付けを心がけてください」と言ってすんなりと立ち去るくらいの、まぁ、軽いルール違反でした。けれども、2つ目が良くない。
あなたは朝比奈揺一行と、自分達が呼んでいない人達と情報を交わしていた。それは協力と一緒です。重いルール違反です。
――――――ですので、ルールに違反したあなた方は殺されて当然です」
と、ザクリと言う嫌な音と共に周りを取り囲んでいた精鋭の兵士達が、腹を真っ二つに裂かれ、大量の血を吐きだす。
「や、止めろー! 死にたくない!」
「ごめんなさい! もうしませんから!」
「アイスバーン様――――!」
彼らは声をあげて、生への執着を見せるも、
「うるさいなぁ、違反者は黙ってろ」
と、彼女の刃に裂かれて絶命した。
「大丈夫かい、朝比奈揺一向。君達は違反者じゃないから、殺さないでおいてあげたよ。本当に大丈夫?」
もうそこには縄で縛られた僕達と、その光景を作り出したアイスバーンさんが血塗れの姿で居るだけだった。
辺りには血がこびりつき、そして悪臭を放っている。
僕達はアイスバーンさんに縄を斬って貰い、
「じゃあ、君達もルール違反だけはしないように」
とアイスバーンさんに念押しされて、そのまま今日寝る宿を探す事にしたのだった。