疑問への回答
次の日。
【多次元相撲の試練】、終了まであと6日。宿屋の主人や泊まっている人達から何か強い視線を感じながら、僕達は外に出てアイスバーンさんを探していた。今回、戦うのは紅葉。この前、月裏さんが提示してくれた勝利方法と敗北阻止方法を試してみるのである。まぁ、紅葉は色々な策をその場で思いつくだろうし、心配もしていないだろう。
「―――――アイスバーンさんの能力。未だに分かってませんよね? ユリーさん?」
「……えぇ。なんかいきなり螺子が飛んだり、小型の機械装置が重くなって来ましたし」
「重力系? それとも電気を使って螺子や機械装置を操っていたんでしょうか? ともかく直接戦いませんと、分かりませんし」
そう思いながら、探していると右手に黒い装飾銃を持ったアイスバーンさんが居た。
「おや? 朝比奈様達一同のお出迎えですか? 回数が限られていると言うのに、2日間連続で戦いを挑むなんて、かなり暇人な人達なんですね。まぁ、出来る限り感覚を覚えている内にやっておいた方が良いでしょうね。と言う訳で、【多次元相撲の試練】の第2戦を開始するのはこちらとしては大丈夫ですよ。いつ、いかなる時であろうとも、挑んで来て良いと言うルール設定でしたからね。さぁ、今日は誰と戦ったら良いのでしょうか?」
相変わらず、ダルそうな声でまくし立てるように言うアイスバーンさん。その言葉に対して、紅葉が一歩前に出る。
「今回は私が相手です。その前に1つ、質問があります」
「ルールについてまだ質問がありますか? それでしたらこちらの説明不足だったのかも知れませんね。では、伺いましょう」
「……もし地面や海面を何らかの形で飛ばしたりしたら勝ちになりますか? それと身体を薄い膜のような物で覆えば、私達は地面についても負けにはならないのでしょうか?」
紅葉が質問した事。それは昨日、月裏さんが見つけたこの試練に対する物だった。他の皆の顔がこわばる。
自分達が見つけた裏ワザが通用するかどうかを相手に尋ねると言う事は、逆にそれを却下されてしまえば見つけた事が無かった事にされる。それに教えてしまったら相手に警戒されてしまう。こっちからしたらハイリスク・ローリターンであるから、僕は多分聞かないと思う。それを紅葉から聞いたのだ。これでもし否定されてしまったら、また対策法を編み出さないと
「えぇ。前者に関しては問題ないですよ」
呆気なく、アイスバーンさんはそう言った。
「そもそもそれを見極められるかと言うのも、試練の対象になっていますし。それは日向ラファエル様がちゃんと公式で認めているので、使用は許可されています。地面を投げたり、海面を凍らせて投げて、相手の足の裏以外の場所に当てた場合は、あなた方の勝ちです。
まぁ、後者に関しては鎧で全身を包まれて『鎧と地面がくっついただけで、直接身体の部分がついた訳じゃないから負けではない!』と言われるとこちらとしても困りますので、後者は却下させていただきますが」
と、「質問はもう終わり?」と言うきょとんとした顔でこっちを見るアイスバーンさん。
「では、他に質問がなかったらさっさとやりましょうか?」
そう言いながら、銃を構えるアイスバーンさん。
「初めから予期されていた? 鎧うんぬんの話は別として、地面を放つ事を先で予定していた? そしてそれを推奨している? いったい、どう言う事なのでしょう? とにかく使えるならばそれで戦うべきなんでしょう……。しかし隠す訳でもないですし、……これは日向ラファエルが本気で何を考えているんでしょうか?」
紅葉はそう考えつつ、呪文を詠唱して魔法を作り出していく。
「……あなたの能力は分かりません。けれども、地面を操り、氷まで操れる魔法使いである私が負ける事はありません」
紅葉はそう言って、海面を凍らせて空中に浮かし、地面に魔力を纏わせて浮かす。
「確かに私の勝利は薄い。私の能力はそう言った物とは縁遠い物だしね。ルール上、それを禁止する事は出来ないですしね。
でもね、本当に強いと言うのは、そう言った悪条件でも勝てる者だよ。私はルールが大好きなんだ。
なにせ、ルールに乗っ取っている以上は、どんな事をしても許されますからね。そう、例えどんな事をしても、ね」