ルール確認
「……多次元……スモウ?」
『スモウ』と言う言葉が分からないユリーはきょとんとした顔で、アイスバーンさんを見つめている。
「あぁ、そう言えばそう言う名前の試練で、私の方から説明しないといけないと、言われましたし。では、説明しておきましょう。
スモウとは、とある東方の国の国技、その国のスポーツです。色々とルールがありますが、今回の場合で適用されるのは足の裏以外の身体の部分が地面についたと言う場合、敗けとします。
範囲はこの増設港街テセウスの街中全域、敗北条件は自身の足裏以外が地面についた場合とします。また、手が地面についた場合も負けですので、鉄骨の上に載るために手を使っても負けにはしません。まぁ、少し周りに海がいっぱいありますので、海に落とされた場合においても負けとしましょうか。
【多次元相撲】とは本来の相撲のように土俵上と言う一定空間内だけでなく、鉄骨の上や壁などを利用して戦うので【多次元相撲】なのですよ」
そう素っ気なくルール説明をするアイスバーンさん。やる気と言うか、気力が全く感じられない。これは本当に試練なのだろうか?
「では、さっさと始めましょう。この勝負は1対1。あなたがたは5人ですから、最高で後4回はやる可能性があるんですから。勿論、あなたがたの誰かが勝った時点で、『朝比奈揺一向はこの【多次元相撲の試練】をクリアした』とみなされて、あなた達に試練の報酬を与えると言う寸法なのですが」
溜め息を吐きながら、さっさと始めましょうと急かすアイスバーンさん。
「……1つ質問。今、最高で後4回、って言った?」
「はい。後4回。この試練は、1人1回が原則なのです。あなたがたは5人なので5回勝負、5回の間に私を倒せればあなたがたの勝ち。5回とも私が勝った場合はあなたがたの負けです。最も5回終わるまでならば私はこの街に滞在してあなたがたの、いつ、いかなる状況であろうとも、試練をしなければありませんし、あなたがたがこの試練を無視して先の街に進もうと別にペナルティは発生しません。
ペナルティはこの試練を5回終えて一度も勝てなかった場合にのみ、行われます。あっ、ちなみにこの試練を受けている間に新しいお仲間さんを見つけた場合、その回数は加算されたりはしません。つまり、パーティーメンバーを増やしても、受けられる回数は最初の5回までです」
つまり、この後連続して4回勝負すると言う事も無く、この街で作戦を練ったり、準備をしても良いし。いつ、夜だろうと雨だろうとも勝負をしても良い。別に別の街に逃げても構わない。なんだか非常に緩い設定である。
「……ちなみにペナルティは?」
「世界の終焉」
と、彼女は答える。
「勿論、こんな世界の交通においての重要拠点であるこの街に居るだけの私に、世界を終わらせるなどと言った大層な事は出来ません。せいぜい、世界の『終焉』ならぬ、世界の『停止』と言った具合ですかね。少なくとも世界に大打撃を与えます」
「……私達の旅に、少なからず影響が出る」
「行ける場所の制限と、旅の充実性の低下。まぁ、今回の依頼であなた達が受ける危険性はそう言った物でしょうね」
行動出来る場所が狭まり、旅における楽しみが減る。月裏さんが教えてくれたのだが、僕達に対して試練の神である日向ラファエルが出したと思われる試練は3つ。
まず、ヴェルモットクレイ。あれはもし、僕達が倒せなくて姫のレベルが15になるまでに達成出来なかった場合、姫が死んでいたのだとか。
続いて、月裏さんが入っている卵を探した【愛する者の試練】。あれはもしも別の卵を選んだ場合、月裏さんの卵をこの世界を滅ぼそうと考えている者に渡して、世界が滅ぶと言うとんでもない物だったらしい。
最後に、【色鮮やかな試練】。この試練は低いと言っていたように、この試練に失敗してもあの誕生都市ローレライにかなりのダメージを与えるだけ(いや、それも十分に大きいが)で済む手筈になっていたらしい。
それに比べて、この【多次元相撲】の危険性は先の3つに比べたら、少し軽いように思える。何か裏があると思うのだ。
「その前に、期限を決めさせていただきます」
「期限……?」
はい、とアイスバーンさんは答える。
「いつでも、とは言いましたが流石に十年、二十年と待たされて、試練を受けろと言うのはいささかこちらとしても強引に思えますので。その頃にはそちらの子供さんがうるうるした眼で、『お父さんやお母さんを倒さないで!』と、こちらを見て精神攻撃を仕掛けてくる可能性も考えられますからね。私、そう言ったのに弱いのです」
その言葉に何を考えたのか、頬を赤らめる姫、紅葉、月裏さんの3人。またユリーも2本の刀を強く握ったまま、顔を赤くしているのを隠すために下を向いている。
「……じゃ、じゃあ、いつまで?」
「そうですねー。あと1週間、つまり7日したら、この増設港街として名高いテセウスが20年を迎えます。ですので、その日を期限の終了としましょう。それ以上は流石に私も持てません」
「……わ、分かりました//////」
顔を赤らめたまま、ユリーは長刀をアイスバーンさんに向ける。
「……ぶ、武器はなんでも良いんですよね?」
「制限を設けていませんからね。基本、なんでも。まぁ、私に有効な武器や相性が悪い武器もあったりしますし、それを見極めるのもまた試練の1つとして考えて頂ければ。
では、これより【多次元相撲の試練】、開始させていただきます!」