女神様は普通じゃない
「巫女服、良いよね~。けどやっぱり時代はツンデレ。けど安易にツンデレばかりやるのもどうかと思うわ~」
目の前に見えるのは、恐らく加護をくださる女神様なのだと僕は思う。
太陽のように明るい、長い金色の髪を背中で髪飾りでポニーテルにしていて、山吹色の瞳と女らしい美しい顔立ち。薄紅色のワンピースを着ているが、胸があまりに大きすぎるためにボタンが上から3つが止まらずに開いた状態なために、大きな肌色の谷間がこちらを向いている。背中からは白い大きな翼が生えており、彼女の足元の近くには190を超える彼女の身長よりも長い大剣が置かれている。
長身でスタイル抜群、そしてエロいと言える女神様は、『週刊! 神による百合の勧め! 第673号』を真剣な眼差しで見つめている。時折、はぁはぁ言うのはどうだろう?
(そもそも何の神様なんだろう?)
全く持ってあの神が何の加護をくれるのかが想像もつかない。
一番ありえるのが百合の加護? それは加護としてどうなんだろうか? と言うか、そもそもこの女神様とちゃんと話が通じるかが一番の問題である。
「あぁ~、良いストレス解消になったわ。あら、お客さん?」
と、そこでようやく彼女がこちらの存在に気付いた。どうやらあの週刊誌を見終わったらしい。相当くたくたになっているのは、それだけ集中して読んでいた証拠なのだろう。
「初めまして、私の名前は戦恋ルルリエル。勝利と戦闘の戦女神の1人よ」
「ヴァ、ヴァルキリー?」
「そうわよ。戦闘系女神全体を指して、そう言うのだけど私の場合は大剣系の戦女神ね」
と、彼女は置かれた大剣を指さす。確かに相当、綺麗で美しい大剣。あの大剣の価値は高いのだろう。
「神様と言っても、人間世界で言うとお役所仕事なのね。それぞれ所属ごとに分かれていて、私は戦女神の中でも大剣系の女神なの。神様と言うのは、基本そう言うお役所仕事だったりするの」
「はぁ……。そうなんですか」
「ちなみに私をここに呼んだ月裏ラキナエルさんは、色々な辻褄を合わせる裏方の神。そしてあの物凄くくだらない男、日向ラファエルは試練の神。
他にも有名なのだと自然の神、森里アズライト、無名なのだとエアコンの神、空翼ギガンドスとかも居るわよ。神様と言うのは千差万別、そして1人の加護をしている神様は基本他の人に加護を与える事が出来ないの。それが神様のルール」
「なるほど……」
分からないような、分かるような。とりあえず、まとめると。
『1.神様は沢山居て色んな物を司っている。
2.加護を与えている神は基本的に1人にしか加護を与える事が出来ない。
3.何故か皆、日本人みたいな苗字がある』
と言う事だろう。そしてこの戦恋ルルリエルさんは、月裏さんに頼まれてここに来たと。
「いやー、あの時は焦ったわよ。日向ラファエルによって転生させられた230名近くの加護を与えるために神様大忙しで色々と加護を与えまくってたよ」
ちょっと、待て。そんな忙しい神様がどうして僕の番まで残ってたんだ?
戦女神ってかなり上のポジションっぽいし、僕の所まで残っているとは……。
「他の神様、禁断の芸術を探求する早乙女フルートが書いた新刊、『我欲ユーノー×女装版天空寺ユーピテル』の百合本を読んでたら遅くなっちゃって! 偶然、私だけあなたまで残ってたの。で、今回、月裏さんに促される形でここに来たの。
まぁ、あなたの事は別に嫌ってる訳じゃないし。別に断る理由もないからね」
「なんともまぁ……」
ダメダメな神様じゃないか。まぁ、こんな僕に加護をくださるのだからありがたいと思うのだけど。
「……」
いきなり黙り込む戦恋さん。……? どうかしたのだろうか?
「あの、戦恋さん……?」
「ん……? いやいや、別に『姫×紅葉』の百合本を考えていた訳じゃないわよ? やっぱり行動力のある姫ちゃんが、受け身気味の紅葉ちゃんを押し倒すとか思ってた訳じゃないわよ? 本当だよ、今は別の理由だったの」
「いや、そんな事報告しないで良いですから」
なんで僕の使い魔が百合百合な展開の所を想像しないといけないんだ、全く……。
けど、何故かさっきのが本当に言い訳のように聞こえたのは何故だろう。本当に考えていそうなのに。
「いやー、ね。流石、月裏ちゃんが肩入れするのも分かるっていうか……」
「ん……? 何か言いましたか?」
「いや、本当に何も言ってないわ。じゃあ、加護を与えちゃうわね」
「お願いします」
「うむ、任せて」とそう言って戦恋さんは目を閉じる。
……しかしこうして見るとやっぱり戦恋さんは顔が整っていて、それに身体つきも良いし、美人さんだよなー。
「ひゃっ……!」
いきなり戦恋さんは可愛らしい声をあげる。なんかこう、色気むんむんのお姉さんが出す可愛らしい声って何だか凄い良い物だ。
「……はい。これで私からの加護は終わったわ。ステータスを見てみて」
「あっ、はい」
えっと、ステータスはっと……。
頭の中にステータスを思い浮かべると、すぐにステータスが出て来る。
【朝比奈揺 Lv.3 種族;人間 職業;女虜男 HP;200/200 MP;90/90 加護;ルルリエルの加護
姫 Lv.8 種族;獣人(狸族と狐族のハーフ) 職業;なし HP;220/220 MP;400/400
紅葉 Lv.8 種族;リッチ 職業;魔法使い HP;96/96 MP;4400/4400
所持金・80620G】
あっ、新しく【加護】と言う欄が出て来て、そこに【ルルリエルの加護】が出て来る。
詳しい説明は、っと……。
【ルルリエルの加護……戦女神の1人、戦恋ルルリエルの加護。大剣の攻撃力とスキル上達率が2倍になる。そして女の子絡みのトラブルに巻き込まれやすくなる】
えっ、なにこの但し書き?
「あっ、私。戦女神だけど女の子の守り神も引き受けているから、加護がこうなるの。まぁ、巻き込まれやすいって言ってもあくまでも可能性の範疇での話だから問題はないわよ?」
「はぁ、なにはともあれ……。ありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げる僕。その光景を見て戦恋さんは「うっ……」と頷く。
「……まぁ、これからの人生、楽しみなさい」
「はい!」
僕はそう言って、神の扉を抜けて出て行った。
揺が完全に居なくなった後、1人、戦恋ルルリエルは呟いた。
「この空間だとあなたの考えた事は神様に筒抜けなのよ、馬鹿。あと、いきなり綺麗とか言わないでよね。困っちゃうんだから。
それに、感謝までされるなんて思わなかったな……。普通、冒険者って加護をくれた神様に対して文句か、それが当然と言う態度で接するって聞いていたし……。
えへへ//////。 揺くん、か。しばらく退屈しそうにないわね」
戦恋ルルリエル。
大剣の戦女神の彼女は、普段は色気むんむんの格好と百合好きと言う事を公言しているけれども、実は多い転生者に対して戸惑ってしまう面や、乙女な面を持ち合わせる、ちょっと変わった神様である。