【閑話】魔王と勇者
神様の祝福を受けて【魔王】となったリリーベル・フランベルは、弟のユウト・フランベルと行動を別にする事にした。
(いつまでも、【勇者】であるユウトの側に居てはダメでしょう。【魔王】と【勇者】はいずれ戦う運命にあるのですから)
そう思って、リリーベルはユウトと別離する事に決めたのだ。いずれどちらが倒されるにしても、このまま行動をしていてもいけないだろう。
トントン。
「ユウト。ちょっと話したい事があるんだけれども、良いかしら?」
『……あぁ。姉さんか。丁度良い、姉さんと話したい事があったんだ』
話?
……何でしょうか?
(けれども、これで弟ともしばらくお別れですね)
何か感慨深い気がする。
弟と一緒に生活を営みながら、一緒に強くなろうと頑張った日々。『教会騎士団』、それから筆頭であるイスルギとの出会い。何気ない日々から、頑張った日々に、落ち込んだ日々。
後で振り返ったら、意外と良い思い出ばかりですね。
(後悔ではなく、後で振り返って嬉しくなるから後嬉、と言う所でしょうか)
そう思いながら、私は扉を開ける。
「やぁ、姉さん。”どうだい、この姿は”?」
そうして私の前に現れたユウトは、ユウトではないユウトだった。
全身に黒色の鎧を纏っており、その瞳はまるで血のように紅い。右腕には黒い細長いレイピアを、左腕にも黒くて細長いレイピアを持っている。そして背中からは大きな力のエネルギーが2枚の翼となって現れ出でている。
「……どうしたの、ユウト? その姿は何?」
勇者とは全く関係ないような、いや勇者とまるっきり逆を行くような格好をしている。
「……ボクが加護を貰っていた神様。その神様はどうやら【勇者の神様】ではなく、【ライバルの神様】だったみたいなんですよ。
ボクは【勇者】ではなくて、【勇者の当て馬】だったんだ」
(勇者ではなく、勇者の当て馬……だったんだ。ユウトは)
とりあえず、もしかしたら【勇者】としてユウトと戦うと言う事を避けられるかも知れないから嬉しいと思うリリーベル。けれども、どうしてこんな格好になっているんだろうと思うリリーベル。
「ユウト、どうしてそんな格好をしてるの?」
「……分からないかな、姉さん。【勇者】であれば確かに魔王を倒すために色々と魔物を倒したり、世界を救ったりしたりするんですけれども。【勇者の当て馬】ならば、世界に刃向う人類の敵としてやるしかないでしょう」
そう言いながら笑うユウトを見て、リリーベルは背筋が寒くなっていた。
(何、これ……。これ、本当にユウト?)
【勇者の当て馬】として本当に、【勇者】を強くするためにやっている感じである。
「リリーベル、ボクはね。ヒーローではなくて、ダークヒーローになりますよ」
―――――そのために、魔王である姉さんを殺して良い?
「……はい?」
どうして?
どうして魔王である事を知っているんでしょうか?
「神様から聞かせて貰ったよ。姉さんは、魔王なんでしょ?
じゃあ、ダークヒーローだけれどもヒーローですし。だから、魔王を倒そうと思っても間違いないでしょ?」
そう言いながら、剣を振るう弟。
「―――――あぁ、全く」
こんな形で別れたくはないんだけれどもと思う私。
「けれども、私の魔法はそう簡単にはいかないわよ? 私の魔法である【空を舞う】はきついですよ?」
「頑張るよ、姉さん! 喰らえ――――――ダークヒーロー・ぶった斬り!」
そうして、私とユウトは、勇者と魔王の、とっても大きな姉弟喧嘩を始めるのだった。