勇者と対立す
翌日。
宿屋にて再び勇者であるユウト・フランベルと魔法使いのリリーベル・フランベルは、僕達の前に座っていた。姫、紅葉、ユリー、月裏さんは近くの席に座って事の成り行きをじっと見つめている。
「さて、返答を聞いておきましょう。姫を渡すか、渡さないか。
渡すとするならばそれで良し。ただし、渡さないとするならば……全力で姫を強奪します。姫は勇者にとって、重要な者なのですから」
「……勇者であるユウトには、それが必要なんです」
ユウトは、昨日と同じく姫を貰うと言う言葉を繰り返している。その姉であるリリーベルさんもまた、必要性を訴えている。
「それがないと、魔王を倒せはしない。だからこそ、どうにかしてそれを手に入れさせて貰います」
じっと睨みながらどうしても姫が欲しいとそう言うユウトに、僕は昨日結論付けた返答を返しておく。
紅葉と、ユリーと、月裏さんと、そして当人である姫と共に考えて出した結論を僕はユウトに出していた。
「――――――僕達は姫を渡さない。姫は僕達のパーティーメンバーなのだから」
僕は力強く、そう言い切っていた。
「そう、それは残念だな……。出来れば君とは友好的な関係を築きたかった。ボクは姫さんを貰えるのならば、君には色々と渡したかったのに。
……と言う訳で、姉さん。ボク達は戦わなければいけないらしいから、姉さんも手伝ってね」
「……いや、姉だから手伝うって言うのは何か違うように思えますが」
「お願いするよ、姉さん」
「仕方ないわね。私も手伝うわよ」
はぁー、と渋々ながら返事を返しているリリーベルさん。どうやら彼女の方は姫をそこまで欲しくはないみたいである。まぁ、本当に姫を結婚してでも必要としているのは、勇者であるユウトなのだから。リリーベルさんとしてはあまり戦いたくはないのかも知れない。
「……でもまぁ、姉として戦うのも一興、と言う所でしょうか。あなたがたは私達よりも強そうですから、魔法使いとして強くなるために戦わせて貰いたくお願いします」
ペコリ、と頭を下げるリリーベルさん。
……結局、戦う事になるんですかね。これは。
「フフフ……。では、ユウト・フランベルとリリーベル・フランベル、それから『教会騎士団』から筆頭の人の3人でボク達は、君達から姫を取らせて貰います。それに勇者の神、オボロさんも私には付いていますし。
覚悟してくださいよ、この勇者ユウト・フランベルを本気にさせた事を後悔させていただきます」
ユウト・フランベルはそう言って、リリーベル・フランベルを連れて宿屋を出て行ってしまった。
その日、僕は勇者と対立する事になったのであった。
その時、朝比奈揺はこう思っていた。
(……んっ? まさか『教会騎士団』の筆頭さんも戦わないといけないんですか?
勇者、ユウト・フランベルと魔法使い、リリーベル・フランベルならば低レベルでなんとかなると思っていたら、筆頭さんと戦わないといけないの? や、ヤバい! どうにかしないと……)
月裏さんはその時、ユウトの言っていた言葉について思案していた。
(勇者の神……。オボロ……。オボロって恐らく、間違いなく、彼女でしょうね。けれども彼女って……)
そしてこれがどう言う物なのかを、ようやく分かったのであった。