表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余り物には……福がある?  作者: アッキ@瓶の蓋。
魔王と勇者と朝比奈揺
135/266

勇者の交渉

「キャー! キャ、キャキャキャ! な、な、な、何を言っているの!?」



 9本の尻尾を出鱈目に動かして、目を回している姫。「コポッ、コポコポン!」と言って混乱状態の姫は、そのまま目を回して座り込んでしまった。紅葉はそんな姫の所に行って介抱しに行く。



「……どう言う事ですか? ちゃんと説明して貰えますか?」



 ユリーがいきなり、姫に対してとんでもない発言をしたユウトを見ながらそう言う。



「そうですね。説明が足りませんでしたね。ちゃんと説明しましょう。

 ボクはユウト・フランベル、勇者として神様から加護を受けている者だ」



「勇者……」



 それってやっぱり、あの物語に良くある『勇者』と言う事であろうか? つまり、彼は神様の加護を貰って、勇者になった人物と言う事か……。



「まぁ、姉ちゃんは魔法の神様の加護を貰ったから、魔法使いになったんですけれども」



「そう。私、リリーベル・フランベルは魔法使いです。そして弟は勇者として、姫さんが必要と言う事なのだと言う事です」



「そう、姉ちゃんの言う通り、ボクには彼女、姫ちゃんが必要なのだ」



 そう言いながら、姫を指差すユウト。



「神様が言っていた。その姫ちゃんと言うのには『九字の印』と言う、尻尾に物を入れる事によって新たに能力が宿るって事を」



 ……! 『九字の印』!?

 確かに姫にはそう言う能力があるし、姫の9本の尻尾のうち、3本の尻尾にはそれぞれ『臨』、『兵』、『闘』の3文字が刻まれており、スキルとして確かにそう言ったスキルが存在する。



「そして神様はこうも言っていた。

 『9本目の尻尾、『前』の尻尾を手に入れる事により、姫は前世代である親の力を手にする事になる』と」



 親の力……それってもしや……。



「「玉藻前たまものまえ……」」



 僕とユウトの言葉が重なる。僕のそうではないかと言う言葉に反応するかのように、ユウトが確信を持ってその言葉を言っている。



「玉藻前と言うのがどう言う”もの”なのかは知らない。しかし、それを手に入れれば確実に魔王を倒せる最高級の秘密兵器として役に立つと我が加護をくれた神はそう言っている」



「……」



 ユウトの言葉に僕は何も言い返せなかった。



 尻尾に文字が刻まれていて、その文字が何らかの能力を兼ねていると言う事は多分、知らない人間であろうとも、ある程度は予測できる。しかし、『九字の印』や『玉藻前』は知らなければ絶対に出て来ない言葉。

 ユウトは知っているのだ。自分を勇者にしてくれた神様から、加護と一緒に姫の事情を。彼女の身体に眠る力を。



「それ故に、ボクは姫と行動を共にして、魔王を打ち滅ぼさなければならない。魔王とは教会曰く、『この世界の魔を総べる、人類を滅ぼそうとする絶対悪』だと言う事だそうだから。勇者であるボクが倒すのは当然だろう」



「そ、それと、姫ちゃんと結婚すると言う事は何か関係があるんですか?」



 と、月裏さんが姫の側に行って姫の身体を抑えながらそう言う。



「うむ。大いに関係がある。朝比奈揺は姫と『主と使い魔』と言う関係の元、神様の力によって強く繋ぎ止められている。そして、姫の尻尾にはその姫と最も強い関係性に居る者が関わった物しか入らないのだ」



 つまり、今の状態だと僕がその姫と一番強い関係性にある人物で、ユウトは姫の『九字の印』、正確には『前』の尻尾を手に入れて欲しいが出来ないと。



「それって、僕がやったらダメなんですか? 僕ならばあと6つも手に入れて、魔王も倒しますが……」



「それはダメだ。魔王を倒すのは勇者と相場が決まっている。魔王は勇者以外には倒せないのだ。それに理由はそれだけではない。6つの印のうち、最後の印は今の朝比奈揺では作れない」



 じゃあ、僕では『前』の尻尾も生みだせないし、魔王を倒す事は出来ない。けれども、この『勇者』の称号を持つ彼ならば魔王を倒す事が出来るのか。



「魔王を倒すためには、ボクが止めを刺さないといけない。『勇者』として。今回の魔王は神様曰く、『止めは勇者が刺さないと死なない』と言うタイプの魔王なのだそうだ。

 しかし、止め以外ならば誰にだって魔王を攻撃出来る。姫にはそのボクが魔王に確実に止めを刺すための主戦力として、戦って欲しいのだ。そのために、ボクは姫を勧誘する。パーティーメンバーとして。

 そして6つの『九字の印』もボクがこの手で決める。そのために姫と結婚する必要性があるのだ。『主と使い魔』と言う関係よりも、『夫婦』と言う関係の方が強いからな」



 彼は堂々と『勇者』としてそう言う。魔王を倒す存在、『勇者』としてはっきりと姫が欲しいとそう言う。



「ボクは彼女の力が魅力的だ。勿論、彼女自身も。

 だからこそ、ボクは彼女が欲しい。君から譲り受けたい。



 ……簡単に結論が出るとは思えない。けれども、ボクが姫を心の底から必要としていると言う事。君とは違って、姫の『前』の尻尾を作り出せる事。

 その事を忘れないで欲しい」



 「それでは、また返答を聞きに来ます」と言ってユウトは、姉であるリリーベルさんを連れて店を後にする。



 僕達はすっかり眠気も飛んでしまった状態で、椅子に座ったまま呆然としていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ