ミランダ、ゼツボウする
その頃。天見アバユリは義妹である温泉の神、天見ミランダが営む旅館、『理想郷温泉 ミランダ』へと向かっていた。
「義妹の経営する温泉旅館に行くその理由が自分の仕事部屋で開かれる女子会に必要なお菓子や飲み物を貰いに行くためって……どうなんだろうな……」
天見アバユリはそう言いながら、明らかに気乗りしない様子で、けれどもしっかりとした足取りで、『理想郷温泉 ミランダ』、天見ミランダの元へ向かっている。
「しかし、これが1人じゃなかったから良かったものの、1人で行ったら僕はただの痛い兄だったろうな。まぁ、お前が一緒に行ってくれて嬉しい」
【そう言うなよ、アバユリ。きっと彼女達も我のような者が付いて行って手伝ってくれると思っていたよ。まぁ、さっきは我もいつものように、例のごとく殺されてしまったけれども、我は16の端末の中でも1人居れば蘇れますからね。呼び出して手伝わせるのも普通に出来ますし。あっ、【書記の神の主神】である宮本デュークは呼び出せませんが……。
まぁ、それでも15人は呼び出せるので、16人が正しいですけれども】
「それは嬉しいよ。人手……いや、この場合は神手と言うべきか? ともかく人数は多い方が良いし。
そう言えば、お前はミランダと顔を合わせた事はなかったな」
【まぁ、大丈夫でしょう。我は結構な人から好意的な眼で見られる事に関しましては、高い評価を得てる我ですよ?
なにせ、あの試練の神様、日向ラファエルと親友なんですから】
フフン、と笑う彼女。それに対して、「それは楽しみだ」と言う天見アバユリ。
「そうこうしている間に、着いたな。『理想郷温泉 ミランダ』に。さて、ミランダを呼び出すとするか」
そう言って、天見アバユリはチャイムを鳴らす。チャイムを鳴らすと、「はーい!」と元気良さそうな声でミランダの声が聞こえて来る。そして扉を開けて天見ミランダが出て来る。
2mはあろうかと言う巨体と、黒を主な基調とした清楚なメイド服の女性、天見ミランダはその手に依頼されていたお菓子と飲み物を入れた段ボールの箱を持ったまま現れる。
そんな彼女が扉を開けた先には、自分の兄、天見アバユリと黒髪の女性が立っていた。ツインテールとポニーテールを併せ持ったような不思議な黒髪、胸ポケットやズボンのポケットには本状のような物を入れまくっていた黒いスーツを着た、160cmくらいの身長の普通レベルの美少女。そして胸や尻と言った男性を喜ばせるような部分だけが、丁度良い大きさに発達している。そう言う女性。そんな女性は、兄の腕を取りながらミランダの方を見ながらウインクをしていた。
【初めまして、義妹さん! 私、お兄さんの”オトモダチ”、端末の神である天見……あっ、間違えました。豆羽エゴと申す者です。まぁ、天見さんとはいつも仲良くさせていただいております】
ウインクをしながら、妖艶に見つめる彼女を見て、天見ミランダはイラつきながらも相手をしていた。
「い、いらっしゃいませ。豆羽エゴさん。私、兄さんの義妹で天見ミランダと申します。どうか何卒、よろしくお願いします」
そう言って、荷物を置いて手を差し出すミランダ。
【はい、我としてもよろしくお願いするよ。なにせ、同僚の義妹と仲良くしたいと言う気持ちが強いからね。もしかしたら色々とやる機会もあるかも知れないし】
そう言いながら手を握る彼女。
(この人、何……? 今までの人達は私を見たら多少なりとも警戒して、兄さんを諦めたのに……。この人にはそう言う感じが無い。もしかしてこの人こそが私にとってのライバルなの?
うぅ、そんな胸やお尻で籠絡して……! わ、私の方が絶対に質感とか重量感とか上だろうに……!)
(【おやおや、なんか我。今、この義妹さんに凄い睨まれてる? 天見アバユリと話していたから、ついつい天見姓を名乗った事がそんなにいけない行為だったのかな……。
うちの事務所、兄弟姉妹関係を持つ人が限りなく少ない……と言うか、他だとルルリエルとメモリアルの従姉妹関係しか思いつかないから仲良くしたいんだけどな】)
そう言いながら、2人はお互いにお互いを誤解したまま、握手をしつつ話を続けて行く。
アバユリはその2人の関係を見ながら、「あっ、仲良さそうだな」と微笑ましく見ていた。それを見たミランダが驚く。
(に、兄さんが笑ってる!? も、もしかしてこの人とは既に恋人とかそう言った関係!? 恋人が自分の義妹と仲良くしているのを見て、嬉しくなったとかそう言う感じですか!?)
そう言う風にはアバユリは思っていないのだが、ミランダは勘違いのままエゴに聞く。
「え、エゴさんは兄さんとどう言う関係なんですか!?」
【えっと、我は良く彼に(手伝いを)頼まれるね。やっぱり(人手が)多い方が良いと言って】
「(性行為を)頼まれる!? そして、兄さんが(体位が)多い方が良いって言ったんですか!?」
勘違いのまま話を誤解して、訳の分からない勘違いをするミランダ。
【あぁ、そうだ。今から我は彼の部屋に(荷物を運びに)行くんだ】
「に、兄さんの部屋に行く!? そ、それって本当ですか、兄さん!?」
手を離して、アバユリに聞きに行くミランダ。
「あぁ。今、部屋に沢山の女子が居るからさ」
「ま、まさかの同時プレイ!?」
あぁ……と自分の兄の部屋で月裏さん達が女子会をやる事を知らされていないミランダは、あぁ……と落ち込んだ様子でガクリと倒れる。
「だ、大丈夫か? み、ミランダ」
「に、兄さん」
兄に心配されて嬉しくて顔を赤らめるミランダ。そうしている間に、エゴが地面に置いてあった女子会用の段ボールを持ち上げる。
【じゃあ、これを君の部屋に運んで行けば良いんだよね? あぁ、我は彼女達と混ざって(女子会に)参加したいんだけど。彼女達に混ざって怒られないかな?】
「大丈夫じゃない? 彼女達が(女子会に)参加する事に異議を唱えなければさ」
「に、兄さんの部屋で沢山の女子がくんずほぐれずで、エゴさんも混ざって……あぁ、脳のキャパシティーを越えそうです」
もう既に訳の分からなくなってきているミランダは、頭をくらくらしている。
「大丈夫か、ミランダ。兄さんはもう帰るからゆっくりしとけ」
「ま、待って! 兄さん!」
そうやって逃げるの、と言う気持ちでミランダはアバユリの腕を掴む。その瞬間、アバユリの腕がゴキッと嫌な音がする。
(……あれ? これ、腕を折ったかな? こりゃ不味い。早く手当しないと)
しかし、義理の兄の腕が折れた音は、色々いっぱいいっぱいのミランダの耳には届かない。
「に、兄さん。そ、そんなに早く帰りたいの? (私じゃない女子達に会う為に)」
うるうると涙目の彼女に、アバユリは普通にこう言った。
「あぁ、早く帰りたい。(早く帰って腕を治さないと)」
その言葉に、「ガーン!」とショックを受けるミランダ。そして顔を落とす。
「み、ミランダ? だ、大丈夫か?」
【義妹さん? どうかしましたか?】
心配そうに言うアバユリとエゴ。そしてミランダは顔を上げて大きな声で叫ぶ。
「わ、私も兄さんと一緒に部屋まで行くんだから!」
ちょっと今回はギャグ方面に走り過ぎました。すいません。