”親友”
試練の神、日向ラファエルが辿り着いた場所。そこは姫や紅葉にとっては因縁深い場所であった。何故ならそこは飼育の神、豆羽ミラキジェスが作り上げた使い魔を飼育する場所、ミラキジェスの飼育部屋である。
「おや、君から来るとは珍しい。豆羽ミラキジェスの飼育部屋にようこそ、日向」
「生きていたか……【親友】。つまりまたしても私は失敗した、と言う事か」
はぁ……と溜め息を吐く日向。それを見て、ミラキジェスは理解したような顔で日向を見る。
「もしやまたしてもくだらない戦をしていたのかい、君は? ”あれ”を探すなんて言うくだらない物を」
「くだらなくないさ。少なくとも私にとってはくだらなくなんかない。友人を救うのに、くだらない、くだらなくないとは言ってられないじゃないか」
「そうかい、それは残念だ。君は私達の友人だけれども、決して私達全員に友達に思われてる訳じゃない。唯一、親友として思っているのは私だけだと思っても良い」
それに対して、分かっていると言いながら水を要求する日向。
「喉がからからなんだ。喉を潤したいから、何か恵んでくれ」
「ずうずうしい……。まぁ、親友の日向だから良いですけれども」
そう言って、何かないかを探すミラキジェス。そして飲料水を見つけたミラキジェスはそれを2つ持って、日向の元へ行く。
「ほら、日向。学生時代、良く一緒に飲み交わした『神界産・偽りビール』。ちっともアルコール分は入っていないのにもかかわらず、10名中何名かはアルコールで酔っぱらったような症状を出してしまうビール」
「おいおい、今。それを持ってくるとか絶対、狙っているだろう。お前」
「いや、残念ながら本当にこれしかなくてな。嫌か?」
「嫌じゃないが……」
そう言いつつ、受け取る日向。その横に座るミラキジェス。
「じゃあ、日向。とりあえず乾杯とするか」
「ミラキジェス。私、別に何もそんな事一言たりとも思ってないのだけれども。特に用事も無くて、お酒を飲むとか駄目な奴の典型じゃないか」
そう言って、何だか納得出来ない様子の日向。それに対してミラキジェスはごく自然な様子で対応する。
「親友と会った。それだけで十分、酒を飲んで語り明かす理由になると思うけどね。この飼育の神、豆羽ミラキジェスの考え方なのだけれども」
「何、ご不満?」と言う顔で見るミラキジェス。それに対して、「いや、別に。それもそうか」と言う日向。
「今日は大いに飲みに語り明かそうじゃないか、日向。久方振りの親友との夜の飲み会だ。語り明かそうじゃないか、大いに」
「……あぁ、そうだな」
そう言って、2人は久方振りに親友同士で語り明かす。
男同士の夜の話。その話は大いに語り合われる。
重要な事。
さして重要でない事。
くだらない事。
面白い事。
仕事の話。
趣味の話。
同じ職場の神様の話。
恋愛の話。
その話は大いに多岐にわたる。
そして時間がかかる。
いつしか夜も明けて、もう夜明けも近い頃。
語りつかれてしまった豆羽ミラキジェスは眠りにつき、そこまで疲れていない日向は、未だにベッドで起きていた。
「ミラキジェスは疲れて眠ってしまったか。無理もない、普通5時間以上喋りまくれば疲れる物だ。これは私が可笑しいのだ。
しかし、ミラキジェスも良く頑張ってくれた。途中、何度も眠そうにしてたのにさ」
そう言いながら、日向はミラキジェスの顔を見る。純真そうな眠り顔。
「良く頑張ったよ、”偽者の癖に”」
と、日向はミラキジェスの顔を見ながらそう呟くのであった。