密会の夜(2)
「『吸引』……だと」
「正確に言えば、引き寄せる力。普通ならば触れない物を掴む事が出来るようになる力。今まで兄さんは恐らく、何か明確な物を指定して使っていたから引力だと思ってたのではないですか?」
確かにそうだ。
今までは、敵を"認識"してその認識した相手を"引力"で引き寄せてると思って『闇』を使っていたんだ。だから、ずっと引力だと思っていた。
「大抵に置いて魔法の属性と言う物は、反転しています。つまりは、相対していると言う事。
『火』は全体的に破壊に長けている魔法が多いのに対して、その相対している『水』は全体的に癒しに長けている魔法が多いのも。『雷』は全体的に物を遠くに飛ばす魔法が多いのに対して、その相対している『土』は全体的に物を構成する魔法が多いのも、相対している理由からです」
『雷』と『土』は相対していると言えるのか? まぁ、敢えて指摘して話を止めるような物でも無いな。話の続きを聞いておこう。
「『闇』の相対している属性は――――――『光』。
『光』の性質は、自身の回復能力や魔力などを分け与える『給与』。つまり自分の物を相手に分け与えると言う物、自分の中の物を相手へと与えると言う事です。
そしてその相対している属性である『闇』は、『吸引』。相手の持つ物や、普通では触れられない物の実体を掴む。それがその『闇』の特性です。私はそれを応用して霊魂を掴み、操って戦っていますが」
普通では触れない物を掴む。それが『闇』の特性、か。
「具体的にはどう言った形で役立てられるんだ?」
「例えば、とある物の中に入っている物の一部を選択して取り出す事が出来るようになります。これを使えば、幾つもの物体が溶けた物の中から狙った物だけを取り出せたり、それから物を壊さずに中に入って居る物を取り出せるようになります」
「なるほど、なるほど。他には?」
「霊魂を扱えるようになる、と言う事でしょうか?
普段、霊魂と言うのは実体を持たない、居るだけの存在するだけの存在であり、幽霊系統の魔物はかなり倒しづらいです。しかし、『闇』属性はそう言った物の実態を『吸引』し、触れる事が出来ます。
普通に触れる事が出来るエネルギーをプラスエネルギーとした場合。つまりは触れる事が普通では出来ないマイナスエネルギーを扱う事が出来ます」
「なるほど」
マイナスエネルギー、普通だったら使えないようなエネルギー。
それを自由に扱えるようになれば、かなり強いんじゃないだろうか? 普通ならば誰も使えないエネルギーを扱う事が出来ると言うのは、かなりお得に思える。『闇』属性、極めれば凄い攻撃手段になるのかも知れない。
「マイナスエネルギーを使えば、かなりの攻撃手段になるな」
「まぁ、その代わりにこのマイナスエネルギーは凄く扱いづらい物です。本来ならば触れもしない、使う事を想定されていないエネルギーです。
普通のエネルギーや魔力とかよりも、遥かに扱いづらいです。ですので、慣れない内はまず動かす事すら困難である、と思ってくれた方が良いです」
「……それって、暗に使うな、と言っているのも同意ですよね?」
動かす事すら困難って……どれだけ扱いづらいんだよ。かなり練習しないといけないな。それくらい扱いづらいって事は。とにかく覚えておいた方が良さそうだ。
「ともかくありがとう、ポイズンリップ。おかげでいい勉強になったよ」
僕がそう言うと、彼女は急にきょとんとした顔になる。そして次の瞬間には顔を赤らめていた。
「……////// 忘れていました、兄さんはこう言う不意打ち的な面を持つ事を////// と、ともかく頑張ってくだちゃいね、兄ちゃん!」
彼女はそう言って、顔を赤らめたまま帰って行った。空を翔けているがどうにも彼女はふらふらと宙を飛んでおり、時折地面に落下したり、壁にぶつかったりとあぶなかっしくも飛んでいた。
……大丈夫かな? 僕はそれだけが心配でしょうがなかった。
Episode5、妹編終了。