余り物を押し付けられる
――――――目を開けると、そこは白い空間だった。そして目の前には何とも気まずそうな顔がした女性が居た。
吸い込まれそうな紫色の瞳、その下にはそれをさらに大人っぽくする泣き黒子が付けられている。肩の辺りまで伸びる質量たっぷりな髪、『ボン、キュッ、ボン』の分かりやすい擬音では言い表せないような『ボボン、キュッキュッ、ボボン』と言う他の美人のナイスバディの女性よりも遥かにも豊満な身体つき。
恐らく美のヒエラルキーの最高点に位置するような完璧な女性。
気まずそうな顔を浮かべているが、それにしても神レベルの美女である。
「や、やっと起きてくれましたか? 朝比奈揺君?」
と、彼女は僕の名前、ニート歴2年の23歳、朝比奈揺の名前を呼んだ。絹糸のような柔らかい、女神とでも呼ぶべき声であった。
「ど、どうして私の名前を……?」
「ご、ご紹介がまだでしたね、朝比奈君。わ、わたしの名前は月裏ラキナエルと言います。気軽にラキナエルとでも、よ、呼んで下さい。俗に言う女神と言う存在、なのです」
「月裏……ラキナエル……? ……め、女神?」
どう言う事? 女神? しかもここはどこ? 僕は朝比奈?
「じ、実は朝比奈君にはやって欲しい事があるんです。朝比奈君は異世界転生って言葉を聞いた事がありますか?」
「ま、まぁ……言葉だけならば……」
異世界転生。それって主に不幸な死に方をした人が向こうの世界で転生してくれるって事だよな? しかも神様が『ちょっとしたミスをしたので、色々なスキルをおまけしてあげる』と言うお決まりの奴ですよね。
「じ、実はミスをしてしまいまして……朝比奈君には異世界転生してあげようかな、なんて?」
し、しかも本当にそうなの? えっ? い、いきなり死ぬ理由は知らないんですけれども、こ、これはこれで……。
「実は数年前に大量の転生者をやったんですけど、それで人数分より1人だけ余ったスキルや使い魔が残ってしまったので……この度、それの処理をする役目としてあなたを転生する事に決めちゃいました」
「えっ? それって? 完全な……ミス?」
それって設定ミスと言う本当の意味での設定ミスなのでは?
……えっ? それってマジな意味での異世界転生の失敗を僕に押し付けようとしてる? 要らなかったスキルの処分場を僕に求めたって事?
彼女の話によると、数年前バスの転落事故で死んだ生徒、249名に異世界転生をさせた。そして種族や使い魔、スキルを与えて異世界に送ったのだと言う。けれどもそれでも、不人気の種族、使役されなかった使い魔、人気が無いスキルや使われなかったスキルなどがあった。一度用意したのに使わないのは勿体無い。故に僕を異世界転生と称して、その使われなかった物達の拠り所を僕にしたのだと言う。
つまり余り物を僕に押し付けた。と言う事らしい。そこで僕を選んだのだと言う。
「種族は一番人気が酷かった『人間』。『勇者』とか『王様』、『貴族』とかはありません。本当の意味での、ただの人間です。
使い魔は貰い手がありませんでした狐と狸の獣人のハーフの娘とスケルトンの一種、リッチです。狐と狸の獣人のハーフの娘はどちらも化かすイメージと裏切るイメージが強すぎるために駄目でして、リッチは知っている人が少なすぎまして……。
そしてスキルは、転生者が全員持っている『自動言語翻訳機能』と『一般的な識字機能』、後、転生者の人気が全くなかった『呪い耐性無効化』と『幸せのサボテン』です」
「えっ? 人間? 狐と狸の獣人のハーフの娘? リッチ? 『幸せのサボテン』?」
ど、どう言う事? どう言う話? ほ、本当に余り物を渡す気? し、しかも良く分からない物があるんだけど?
「で、では朝比奈君。他の異世界転生者が行かなかった世界にはして置きますので、そこで冒険してください。い、色々、すいませんでした。で、では朝比奈君。頑張ってください!」
「えっ、ちょ―――――。どう言う……!」
「で、では後は頑張ってください。わ、わたしも時々サポートはしますので。
こ、この度は本当にごめんなさい!」
そして僕の意識は閉じ、僕の良く分からない異世界転生の設定は勝手に決められてしまったのでありました。