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のんびりした事

 朝食を食べた後、直ぐに出かけた先の図書室で青竜に会って疲れてしまった私は、部屋に戻った後その日の習い事をお休みしお昼寝をした。

 予想外の事だからけで脳がパンク状態だ。

 この世界に転生したわりには知識も全くなく、中途半端にしか前世の事を思い出せないのでチートなんて全然ないじゃないか、と思っていたが、意外な所に厄介なチートが付属されていたようだ。


「はぁ、王竜って…何すれば良いの」


 思わず溜息を漏らしてしまう。

 まだ、全魔法が使える! とか、無限の魔力がある! とかならありきたりで、まだ使いようがあると思う。けど、私にあるのは王という立場だ。前世では特に特別な立場にいた訳でもないので王という立場でも何をしたら良いのか、何をするべきなのかさっぱり解らない。


「何をどうすれば良いのよ……」

「白竜様、お目覚めですか?」


 声を掛けられ顔を上げると、私が起きた事に気が付いたヴァシュアが紅茶を淹れ、目の前の机には甘い香りの漂うお菓子までセットされている。

 きっと私の顔色は最高に悪いのだろう。

 にしても…相変わらず見事な手際だ。目の前のテーブルに並ぶ紅茶とお菓子は間違える事なく、私の好きなものばかりだ。


「ありがとう、ヴァシュア」


 お礼を言うとヴァシュアは表情を緩めた。微笑んだ姿は同じ女性の私でも目が離せなくなるほど美しい。

 きっとこれだけ美人なら、私の侍女を辞めても行く手は数多だと思う…


「私の侍女、辞める?」


 私の前置きの無い言葉にヴァシュアは戸惑った顔をしているので慌てて言葉を繋げた。


「ごめん、急だったよね。私に仕えてる事でヴァシュアは不利にならないかな?と思ってね。貴族の娘なんでしょ」


 未契約の竜と言っても禁忌を犯したと噂されている私のせいでヴァシュアの不貞まで疑われるのは嫌だった。

 余り深く聞くつもりはないけれど、ヴァシュアなりの事情もあるのだろう。望むならば、辞めさせてあげるべきだと思ったけれど、私の補足を聞いて安心したように微笑む姿を見ると、それは余計なお世話だったようだ。


「いいえ、私は白竜様にお仕え致しますわ」

「ほんとに、良いの?」

「はい。私は、白竜様にお会い出来た事を幸せに思ってますわ。私は生涯、白竜様にお仕えしよう…と、勝手にですけど、心に決めてます」


 そう言って優しく微笑むヴァシュアは、最初のイメージとは全然違い可愛らしく微笑んだ。

 そんなヴァシュアに対して、私はそっぽを向きながら答えた。


「ヴァシュアに八つ当たりしてしまうかもしれない」

「えぇ」

「私は竜なのに、全然知識がないの。だから、迷惑をかけてしまうかもしれないよ」

「はい、構いませんわ」

「…私、人と契約しないかもしれない。それに、私に仕えてる事でヴァシュアの事を悪く言う人が出て来るかもしれない。それでも?」

「構いませんわ。私は白竜様にお仕えしたいのです。ですから、他の事で私の気持ちが揺らぐ事はありませんわ」


 気持ちが良いほどきっぱりと言い切るヴァシュアの返事に、ありがとう、と言葉を零した。

 赤竜の事があって以来、契約について頑張ろうと思った時もあった。けれど、どうしても前向きになれなかった。赤竜の事は、私にも非があったのは解ってる。けれど、また誰かを傷つけてしまうのではないかと怖い。し、傷つくのも怖い。

 そんな私に対して、好きでお仕えしているのですから、と冷えてしまった紅茶を淹れなおしてくれた。


***


「白竜様、昼食でございます」


 昼食です。と差し出されたのは並々と注がれた血だった。


「……!? 血を飲むのは朝食だけって話だったじゃないっ」

「本来でしたら、そうなのですが……。白竜様、お疲れのようですし、追加でお飲みになられた方が良いと思います」


 なまじ前世の記憶がある為、顔が引きつってしまうが視野の隅ではヴァシュアが黙って見守っていてくれる。

 ここは、やはりくいっと、躊躇わずに…くいっと…


「ま、不味いよ…」


 うえぇ…。

 竜の味覚としては美味しいけれど、前世の記憶で不味いと思ってしまう。ので結局は不味い。

 血の味を洗い流すように水を飲んでいると、扉のノックの音が聞こえた。


「誰だろ?」

「見て参ります。白竜様は、その間に落ち着いて下さいませね」


 多分、私は血の味のせいで非常にまずい顔をしているのだろう。

 王竜がこんなんで良いのかなーと小さく溜息を付く。そもそも、王竜ってなにすれば良いんだろうか。青竜は心のままに動けって感じでは言ってたけれど、人間と竜のバランスだって考えなければいけないんじゃないかな?

 竜が人間社会に組み込まれているのは竜同士では子孫を残せない事が原因だ。……? 例えばだけど、王竜が番に竜を望んだとしても良いのかな? 竜って王の血を少しでも残せ! とか無いのかな。だめだ、さっぱりわからん。

 そんな事を考えていると、真っ白い封筒を手に持ち、息を切らしながらヴァシュアが戻って来た。


「白竜様! 王家からの、公開式の招待状で御座います!」

「え?まだ一年経ってないよね? どうして急に」

「多分ですが、赤竜様が早々に契約なさった為かと思います。他の騎士達や貴族が赤竜は契約出来たのだから、他も出来るはずだと王に進言したのかもしれません」


 どうしよう。まだまだ、知識もないし、なにより、心の準備が何もできていない。


「不参加、って駄目なの?」

「前例には御座いません……」


 っていう事は、参加しなきゃいけないという事だ。ここで不参加だなんて目立つ事をしたら、とてつもなく厄介そう。


「まぁ、なんとかなるかな…?」


 急な予定に、ドレスはどうしようかと慌てるヴァシュアを横目に、別の不安を抱いてる私は小さく溜息を漏らす。

 最近、溜息ばっかり付いている気がしないでもない。

 

 コンコン


 扉のノックの音だ。今日はやたらと、客が多いなぁ。

 面倒な事ばかりだ、と思ってふて腐れると、ヴァシュアが足早に扉に向かって歩いて行った。

 一時、私が出るよ~と気軽に扉に行ったら、ヴァシュアに酷く怒られたなぁ…なんて、どうでも良いことをふと思い出す。

 最初の頃は、専属で侍女に仕えてもらうという感覚がわからないで、なんでも自分でやってしまっていた。勝手がわからないなりに、ドレスを着てみたり、お風呂にお湯を溜めてみたり、紅茶を淹れてみたり。

 結果は散々だった。ドレスの着方が解らないので適当に着てみたらドレスがぐちゃぐちゃになってしまった。お風呂の時はお湯を溜めたのは良いが、溢れさせてしまって大迷惑をかけてしまった。紅茶はとてつもなく苦くなってしまった…。

 それからは、諦めてヴァシュアに便りっきりだ。


「お久しぶりですね。考え事ですか?」


 突然、上から降って来た声に顔を上げると、薄緑色のサラサラとした髪、濃い深緑色の瞳のイケメン、緑竜がいつの間にか部屋の中に居た。……部屋の中に、というか、私のベット横で、きっちりと立っている。

 昼食を食べてから動いていないので、私は当然、ベットの上だ。


「緑竜様! 白竜様はまだ準備をされていません! どうか、隣の応接間でお待ち下さい」


 あまりの出来事に呆然としていると、怒ったヴァシュアの声が聞こえる。

 そう、私はお昼寝をしていたから寝間着姿だ。


「言われてみれば、そのようですね。こんな時間にお昼寝とは貴方は一体幾つになられたんですかと問いただしたい所ですが……ここは、人間の言う通りにしたほうが良さそうですね。隣の応接間で待つことにしましょう」


 緑竜は淡々言うと、足早に私の部屋を出て隣の応接間へ歩き出した。

 

「あ、相変わらずね」


 幼い頃から、緑竜は几帳面で真面目だったけれど、変わっていないようで思わず苦笑してしまう。

 

「緑竜様には困ったものですわ! さぁ、お仕度をしませんと、緑竜様がお待ちですわ」


 ヴァシュアのてきぱきとした声にはっとする。ついつい幼い頃の事を思い出してしまって、すっかり忘れていた。緑竜は待たされるのが大嫌いだったはずだ……。


「ごめんなさい、ヴァシュア。手伝ってっ」

「かしこまりましたわ」


 慌ててベットを出る私の姿にヴァシュアがくすくすと笑っている。

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