引っ越し
赤い子を待っていた7日間は色々考えた。
どうして赤い子は黙ったままいなくなってしまったんだろう?
私の事、嫌いになってしまったのかな。
赤い子に、捨てられてしまったのかな。傍にいてくれるって言ってたのに…。
そんな私は赤い子に対して、不満ばかり思っていた。
7日間が終わった頃には、不満もあったけど、お祝いしてあげたいという気持ちが芽生えた。
だから赤い子に手紙を書こう。読んでくれるかは、わからないけれど。書かないよりは良いかもしれない。そう思えた。
折角だから、赤い子の好きな紙色で書こうかな。と思った時、私はある事に気が付いた。
そういえば、赤い子の好きな紙色ってなんだろう?
赤い子の好きな果物って、なんだろう…?
赤い子は、いつも…何を食べてたんだろう?
そう、私は赤い子の事を何も知らなかった。知ろうともしなかった。
ただ赤い子に寄り添って、守ってもらって、何かしてもらうのが当たり前で。
赤い子の為に何かしたことってあっただろうか?
私は、「なるようになる」と思って赤い子に任せきりで何も行動しなかった。それが当たり前だと思ってしまった。
2年に渡る私のそんな態度に、赤い子は私に対して諦めてしまったのだろう。自業自得だ。
そして、漸く気が付く事が出来た。
私は、嫌われて当たり前だったんだ。
***
赤い子が去って1か月が経った今日、私たちが生活する部屋はとても騒がしい。
今までは一つの広い部屋をみんなと使っていたけど、個室に移り住む事になったのだ。
寂しい気持ちはあるけれど、私はもちろん、黄い子も緑の子も青い子もみんな喜んでいる。
産まれた時から2年間、一緒に育ってきたが、人体化できるようになったのでそれなりに見られたくない事だって沢山ある。それに、竜の成長は人よりも早く、3年で成人と言われている。
その為、2年目から3年目にかけての1年間は契約に向けて、各自勉強に
励む事になるのだ。
そして今日は待ちに待った引越日。
一人一人に侍女をつけてもらい、みんなでこの部屋を後にする。
私以外の竜の子は未知なる世界への希望からか、キラキラしていた。
そんな中、私は赤い子の事をまだ引きずっていて、みんなのようにキラキラと希望が持てないでいる。
それでも、みんなを心配させてはいけないと思い笑顔で「またね。頑張ろうね」と自分に与えられた部屋に向かって侍女と歩きだした。
「白竜様、着きました。此処が、お部屋になります」
侍女に連れてこられた部屋は2年間住んでた部屋からかなり歩いた所にあったが、部屋の中の調度品は飾りすぎない程度揃えられていて、落ち着く雰囲気だ。窓からは綺麗な庭園が見る事が出来、太陽の光もよく差し込むとても気持ちの良い部屋だった。
「わ・・・ぁ。素敵な部屋ね。良いのかしら?こんなに素敵なお部屋…」
「これから1年間、契約に向けて励んで頂くためにも、当然の事かと思います」
契約に向けて励む、という言葉に心にずしりと重たい石でも乗ったかのような気持ちになる。
「あ、あの…。励むって何をすれば良いのですか?」
「雄竜でしたら、武芸を磨く等色々御座いますが…雌竜でしたら、家事全般はこなせないといけませんね。後は何かしらの趣味を見つける事も必要だと思います」
つまり、これは花嫁修業のようなものだという事みたいだ。
「そもそも、公開式に出席する事が出来る騎士は、騎士の中でも努力を重ね、出世を期待されたエリート中のエリートです。
そして、雌竜に選ばれる事によって貴族としての立場も確立され、出世を約束される事になります。それだけ、期待されているのです。
そして、それに相応しいように励まれるのも、また雌竜の務めでございます」
「公開式に出席するのは、貴族の方しかいないの?」
「いえ。公平性の為にも平民の方もいらっしゃいます。平民の方が選ばれた場合、その平民は陛下に爵位をもらう事になり、貴族になります。」
「…そう、ですか…。責任は重大なんですね」
竜と契約しただけで貴族の仲間入りが出来るという事は、竜との契約はそれだけ国にとって大事な事なのだと認識すると共に、余りの責任に情けない声で返事をしてしまった。
「ええ。ですから、1年間ではありますが、微力ながらお仕えさせて頂きます。そして、申し遅れましたが、今日から白竜様付の侍女になりましたヴァシュアと申します。よろしくお願い致します」
ヴァシュアと名乗る侍女はきちんと頭を下げる。ヴァシュアはサラサラとしたこげ茶色の髪の毛に同じく茶色の瞳だ。年齢は20代前半だろうか?凛としていて、一つ一つの動作に無駄がなく、綺麗な人だと思う。
正直に言って、私に仕えてもらうのはもったいない。と思ってしまうが、私は”竜”なのだから仕方がないのだろう。
小さく溜息をついて部屋を見渡すと本棚が置いてあり、歴史の本がおいてあった。
「あの…。この本、読んでも構いませんか?」
「はい。大丈夫でございますよ。読書をされますか?」
「ええ。あ、あの、恥ずかしい事なんだけど、私、この国について余り詳しくないの…。だから勉強しようと思って」
私の告白に侍女はほんの一瞬だったが、きょとんとした不思議そうな顔をしたがすぐに気を引き締めたような顔に変った。
「事情は詳しくは知りませんが、知らない事を認め、知ろうとするのは素晴らしいと思います。もし、わからない事がありましたら声を掛けて下さい。この国の歴史やらしきたりでしたら、お教えする事も出来ると思います」
「親切にしてくれて、ありがとう。えっと、ヴァシュア」
ヴァシュアの優しさににこりと微笑んでお礼を言うと、ヴァシュアもにこりと微笑んで部屋を出て行った。
優しい人で良かった、とほっとしながら歴史書を読んでいると傍にあったテーブルにことりと紅茶が置かれる。部屋を出て行ったのは、紅茶を準備するためだったようだ。
暖かい紅茶に口をつけると良い香りが鼻を擽る。
契約出来るかどうかはわからないけれど、頑張ろう。紅茶の良い香りに勇気付けられた気がした。
誤字が多くて申し訳ありません。
反省です。