考えるの、苦手です
つい先程まで、コンビニ帰りのはずが、気が付いたら緑と水が溢れる部屋に居た。
辺りを見回すと、手足の短い生き物が自由気ままに過ごしている。
個体によって色が違うのか、赤い色をした生き物の他に、緑、青、黄色と色とりどりだ。多分、あれは小説や映画に出てくる竜の子供、幼竜だと思う。これは何の夢だろうか?と思い自分の手を見ると、見えるのは人間の手ではなく、白銀色の鱗が付いた手だった。
***
高校生の私は身長が155センチ。大きくもないが、小さ過ぎもしない私が、地面がすぐそこにあり、天井が遠くに見える。
その事から考えると、私の視点は非常におかしいと思う。まるで、目の前を自由気ままに過ごしている色とりどりな生き物と同じ大きさのようだ。
あくまでも確認のつもりで、見える範囲を見てみるが、どこを見ても私の体には白銀色の鱗がキラキラと付いている。
余りの現実離れした事態に呼吸が荒くなりながらも、一生懸命短い手と足を動かしてみる。
一応、自分で自分の顔を鱗のついた手で叩いてみても、目の前の光景は変わる事がない。どうやら、私は、人間外生物になってしまったようだ。
ぽてぽて。
ぽてぽって。
こけっ。
手足の長さから、三頭身だと思われる体は非常にバランスが取れにくく、動きにくい。
こけても、痛い思いをしても、現実に戻らない所を見ると夢乙という訳ではなさそうだ。早く現実に、日本に帰らなきゃ家族が心配するじゃないか、と心の中で悪態を付いて、違和感に気が付いた。
私は、身長155センチの女子高校生だ。これは覚えている。親友もいた。友達もいた。家族もいた。なのに、親友、友達、家族の名前が一切思い出す事が出来ない。認めたくないけど、怖いけど、正直に言えば顔も思い出せない。
思い出すのは、親友も友達も家族も、私に優しかった事だ。確か、私には兄2人と姉が1人居た。私は末っ子だ、親友は一人居た。友達は、それなり居た。いろんな子が居たので曖昧だけど、確実に居た。
そんな事は解るのに、名前や顔が思い出せない。
何が起きた?なんで?どうして?色んな事を考え始めたけど、次第に考える事が出来なくなってきた
ぐるぐるぐきゅぅー
お腹が空きました。
そう自覚した途端、さっきまで考えてた事はすっぽり頭から抜けてしまって、食べたいよいう欲求が増すばかり。
お腹が空いた!と叫びながら地面に芝生が生えている地面にへばりつくと、不思議と空腹が満たされていく。
げぷっ。
大人しく地面にへばりついていただけで、お腹いっぱいです。
なんで?と不思議に思ったけど、答えは自然と解っていた。
地面に生えている芝生は沢山の太陽を浴び、水を含んでいる為、光と水の精霊の力が強く宿っている。
そして、”私達”にとってそれはご馳走だ。
どうして解るんだろうか?と不思議に思ったが、またしても考える事が出来なくなってきた。
食欲が満たされると襲って来る欲求。
睡眠だ。
この眠気に勝つ方法はなかなか無いと思う。
いいや、寝てしまえ。
ぽてり。
おやすみなさい。
***
あれから、数日が経った。
最初のうちは、起きては食べて、そして寝る生活だったが、最近では起きている時間が少しだけ長くなってきた。
その為、他の色とりどりの幼竜達とも遊ぶようになった。
幼竜の言葉だけども、だいぶ話せるようになってきたので、今日は思い切ってある事を聞いてみようと思う。
(ねぇ、みんな!)
((((どうしたの?))))
声を掛けると、黄色、青色、緑色、赤色の竜が集まって来た。
(ねぇねぇ、私たちって”竜”なのかな?)
私の質問に一番先に答えてくれたのは赤い子だった。
(そうだよ。ぼくたちは竜だよー?)
そに答えに呆然としていると、他の竜たちはなんだったんだろーねー?とキャッキャしながら遊びに行ってしまった。
心配そうに傍に残ってくれたのは赤い子だけ。
(どうしたの?白い子。だいじょーぶ?)
(う、うん、だいじょーぶ…ふぇ)
私は、涙が出て止まらなかった。漠然とだけど、私はなんらかの理由で日本には帰る事が出来ないのだと悟ったからだ。
そんな私に、赤い子が優しい言葉を掛けてくれた。
(白い子、泣かないで?あのね、白い子に番が出来るまで、僕がずっと傍にいてあげる!)
(ずっと…?)
(うん、白い子のお兄ちゃんになってあげるよ。白い子を守ってあげる。だから泣かないで?)
(ありがとう。赤い子が傍に居てくれるなら、もう泣かない)
泣いても仕方がない。私は竜に、幼竜になってしまったのだから。ほんとは凄く辛い。だけど、私は今、竜として此処にいるんだ…。
私が泣きながら笑うと、赤い子も嬉しそうに笑った
それからは毎日を赤い子と一緒に過ごした。赤い子は他の子と比べると闘争心が強いけど、私には凄く凄く優しい。
そんな私と赤い子を見て、毎日、朝昼晩と私たちのお世話をしてくれる人間のお姉さんが不思議そうにしてた。
「不思議ですわぁ…。赤い竜は闘争心が強いから余り他の竜を守ったりしないはずなのに」
人間のお姉さんの独り言に私は首を傾げる。赤い子も揃って首を傾げる。
(赤い子は、いつも優しいよぉー)
(僕は白い子を守るって誓ったんだ、当然だろ!)
一生懸命、二人で抗議したけど人間のお姉さんには私たちの言葉は伝わらなかったみたいだ。
「ふふっ、でも、仲が宜しくて微笑ましいですわ」
人間のお姉さんは持って来た沢山の果物を中央に置くと、にこにこしながら帰って行った。
((ご飯ー!))
最初の頃は芝生にへばりつくだけで満たされていたけれど、最近では果物から精霊の力を摂取しないと足りなくなってきた。
体の大きさは相変わらずの三頭身スタイルなのに、不思議だ。
はむはむ。
毎日を赤い子と過ごした。たまに他の子とも遊んだ。他の子も優して、とても楽しい。
けどやっぱり、赤い子と居るのが一番落ち着く。
今は此処が私の定位置。
初、小説投稿です(ドキドキ
※念の為、R15・残酷な描写ありの設定です。