螺旋階段
人が毎日見ているもの。
夢。
その中でも「悪夢」に分類されるものを一度は見たことがあるだろう。
あなたはどんな「悪夢」を見たことがありますか。
あれは小学5年生の頃の話。
私は不思議な夢を見た。
気がつくと私は薄暗い暗闇の中にいた。
最初は目が暗闇に慣れずそこがどういった場所なのか分かたなかったが、次第に目が慣れてくるとどうやら廃屋の中に閉じ込められていることがわかった。
周りには老若男女問わず複数の人がいたがみな一様に虚ろな目で下を向きぶつぶつ何事かを唱えていた。
あまり関わり合いたくなかったので、一人で廃屋の中を調べているとお婆さんと孫らしき子供の後ろの壁にドアを見つけた。
もしかしたらそこから外に出られるかもしれない。
そう思った私は小走りでそのドアまで駆けよりドアを引いた。
中も薄暗い部屋になっており木製の螺旋階段が下にずっと続いていた。
出られるかもしれないと期待した分落胆は大きく、しばらくその螺旋階段の下を茫然と眺めていた。
すると下の方からギシ・・・ギシ・・・と、何かが階段を昇ってくるような音が聞こえてきた。
なんだろう。
そう疑問を抱いた私は目を凝らして何が昇ってきているのか確かめようとした。
どうやら人のようだった。
服は来ていなく、体は傷だらけ。
髪の毛はぼさぼさで何年も散発していないのか長く伸びている。
そして何故人「のよう」と表現したのかというとその人のようなものは人の形はしていたが酷く不自然な格好で階段を上っていたからだ。
体育の時によくやらされたブリッジの体勢。
その状態で器用に手足を動かし昇ってきていた。
そして逆様になるはずの顔が180度回転し正面を向いている。
あれは関わってはいけないものだ。
しかしあまりに異様な光景に目を背けられずにいた。
それが間違いだあったことに気づかず。
そう、目があってしまったのである。
その瞬間薄暗く顔もよく見えないはずなのに確かに笑ったのがわかった。
そしてもの凄いスピードで駆け昇り始めたのである。
「-------」
何かを叫んでいるようだがその当時あまりに気が動転しており何といったのか聞き取れなかった。
そこて目が覚めた。
余りの気持ち悪さに吐き気を覚えたのを今でも覚えている。
夢というものは起きたら忘れてしまうものだがなぜかその夢は何日経過しても忘れることがなかった。
月日は流れ私は中学3年生になった。
流石にその頃には昔見た悪夢も忘れ、部活も引退し受験勉強に精を出していた頃だった。
何一つ変わることのない毎日をただ平凡に過ごしていたある日の夜。
勉強が思うように進まず、少し仮眠を取ろうと思いソファに横になった。
そして気付けば私はまた廃屋の中に居た。
それも今度は螺旋階段がある部屋におり、下にはあの人のようなものがはっきりと見え駆け昇っている。
あの時の夢の続きだ。
一気に記憶が蘇った私はとにかく逃げなければと思いあの時入ってきた後ろのドアから逃げようとしたがドアがただの壁になっている。
その壁からは木造だからか向こう側から声が聞こえる。
「イケニエガカエッテキタ。」
何度も何度もそう呟いているのが聞こえた。
冗談じゃない、どうにかしてここから出なければ。
しかしいくら木造だからといって素手で壊せるほど壁は腐っていなかった。
人のようなものはもう目前まで迫っている。
ここから出してくれ。
そう叫びながら壁を叩くが向こう側の言う言葉は変わらない。
逃げられないのか。
そう諦めかけたが後ろから聞こえていたはずの足音が消えていることに気がついた。
もしかして先に向こうが諦めてくれたのか。
そう考えゆっくり後ろを振り向くと真後ろに立っていた。
ブリッジの体勢ではなく。
眼は血走り、口元は避け、鼻は削り取られたのか穴が二つ開いているだけ。
肌は荒れところどころにウジ虫が肌から突き出て蠢いている。
そしてその人「であったもの」に腕を握られた。
もう駄目だ。
完全に諦めた瞬間目の前にあった人であったものはおらず目の前には母の顔があった。
どうやら夢にうなされていた私を母が起こしてくれたようだ。
うなされていたというか叫び声をあげたらしい。
服は汗でびっしょりになっていたのでとりあえず風呂に入ろうと思い立ち上がろうとソファに手をつき力を入れると激痛が走った。
腕には青痣が出来ていた。
それも手の形に。
しかしその後あの夢の続きを見ることはなかった。
あの場所はどこだったのだろうか。
あれは誰だったのだろうか。
あの時あれは何を叫んでいたのだろうか。
そして腕を掴まれた後、母に起こされていなけば私はどうされてしまっていたのだろうか。
更に付け足すならば。
一人暮らしをしている私の右肩に置かれている手は一体誰のものなのだろうか。
謎は一つも解き明かされていないままである。