学校祭の姉(当日) 3(終)
家に帰り、風呂に浸かりながら俺は学園祭の思い出に浸っていた。
いろんな事があったな、と思っていると、風呂場のドアがノックされる。
「シャンプーとかならあるぞ?」
「いや、シャンプーじゃなくて……」
声はきっと理子姉の物だろう。何か用事でもあるのかな。
「どうしたんだ?」
「その……」
何か布がこすれあう音が、ドアの向こうから聞こえてきた。
ん……理子姉、一体どういうことなんでしょうか。
「お風呂……一緒に入ろうかなって」
「!?」
ドアが開くとともに、俺はがばっと後ろへ振り返った。
がさがさ音がしないから、きっとタオルすら着けていないのだろう。
嫌な予感がする。何故だろうか。
「将君、劇頑張ってたね」
俺の隣に理子姉はちゃぷんと入ってきた。
理子姉の素肌が俺の左腕に触れ、心臓の鼓動が嫌でも早まってしまう。
体育座りのように俺は座り、ぶくぶくと泡を吹いた。
「かっこよかったよぉ」
理子姉はそう言うと、湯船の中で俺にむぎゅぅと抱きついてきた。
理子姉の吐息が首筋までかかり、俺の身体は理子姉に包まれてしまう。
頭の中が真っ白になりかけるが、ここで理性を失ってはいけない。
俺は理子姉から若干目をそらしつつ、自分の状況を整理する。
「理子姉、頼むからタオルくらいは」
「いいの。将君とは直接むぎゅうしたいから」
「ちょっ」
理子姉が俺を正面から抱きしめ、そのままキスをしてきた。
俺の背中が理子姉の背中に触れたとき、電流のような物が俺の中を走る。
理子姉とのキスもあいまってか、俺はその場で意識を失ってしまった。
俺が目を覚ました頃、風呂場に理子姉の姿はなかった。
風呂から上がって居間に向かうと、そこでは理子姉がテーブルに倒れている。
「むにゃ……将君……」
寝言が聞こえてきた。一体なんの夢見てるんだ?
理子姉の隣に座り、俺はその場で足を伸ばす。やっぱ伸ばすと気持ち良い。
「……理子姉」
少し悪戯心が芽生えてしまい、俺は寝ている理子姉の頬にそっと触れた。
反応はない。
「……」
こっちの方を見ながら、理子姉は笑顔で目を閉じている。
その姿が綺麗で、可愛くて、そして無防備だった。
周りをきょろきょろと確認した俺は、意を決して理子姉の方を向く。
「……こんなとこで寝てる理子姉のせいなんだからな」
再度周りに誰もいないか確認した後、俺は理子姉の頬にそっとキスをした。
やわらかい頬で唇がぷにっとなり、俺の身体中から熱が一気に出てくる。
やっちまった。
「だ、誰もいないよな!?」
立ち上がり、辺りの様子を慌てて確認する。
廊下には誰もいない。
「……はぁ」
居間に戻り、理子姉の隣で俺はテーブルに寝そべった。
眠ろうとした時、理子姉の腕がにょっと伸びて俺の左腕を掴む。
「!?」
「悪戯したの、だーれだ?」
小悪魔な表情に変わった理子姉が、俺の左腕をがっしりと掴んで離さない。
お、起きていたのかよ理子姉! 俺全然気づかなかったぞ!
「……いや、俺は何も」
「えーっ、嘘つきな弟はいないよー?」
「……はい、しました」
「何を?」
理子姉は俺を床の上に倒し、その上に乗っかった。
俺と理子姉の顔との距離が数センチしかなく、心臓が飛び上がってしまう。
「……頬にキスをしました」
「正直でよろしい。一緒に寝よう?」
「え、だって今夕食……」
「あれ、聞いてなかったの?」
理子姉は不思議そうに思う俺を見て、首をかしげた。
何かあったっけ。
「今日は私のマネージャーが美味しいお店に連れてってくれるんだ」
「マネージャーさん?」
「うん。将君と一緒に行きたかったから」
美味しいお店か。あれ、だけど美香姉たちは?
「美香姉たちはどうなるんだ?」
「百合姉と一緒に他の店に行っちゃったよ。もう行く?」
理子姉は俺のほうを見て、にっこりと微笑んだ。
何か心配な事があったら私に任せなさい、と。はい、そうします。
「じゃあ行くか」
「よーし、じゃあ決まり」
理子姉は携帯電話でマネージャーさんに連絡した後、荷物を持って俺の腕を引っ張った。
少し待つと、家の前に一台の車が止まる。
「理子さん、今回は弟さんと一緒でよろしいですね?」
「うん。極力安全運転でお願い」
「わかりました」
車を運転しているこの女性がマネージャーさんなのだろうか。
俺は理子姉と一緒に、その車へ乗り込んだ。