学校祭の姉(当日) 2
劇が終わった後、俺と美香姉は一緒に喫茶へと向かった。
愛理姉がそこで喫茶係の仕事をしているため、見に行くのである。
「……あ、将君!」
喫茶室に入り、席に座ると愛理姉がこちらへやって来た。
あの時のメイド服姿で、今にも「おかえりなさいませご主人様」と言いそうな雰囲気だ。あぁ、可愛すぎる。
「劇、ちゃんと出来た?」
「ああ。美香姉も頑張ったよな?」
「……うん」
愛理姉はにっこりと微笑んだ後、慌てたように注文をとり始める。
その慌てっぷりも可愛すぎる。わたわた、あたふたとしているのがなんとも。
「ご、ご注文は何にっ」
「アイスコーヒー一つ頼むよ」
「……私はオレンジジュース」
「か、かしこまりました!」
愛理姉は飛び跳ねたかのように去っていき、視界から消える。
ぼうっとして見ている俺の手首を、美香姉が強めにつねってきた。
「いてっ」
「……」
いかにも不機嫌そうなので、愛理姉をガン見するのはやめておこう。
美香姉は俺の向かいに座っていて、目が合うと美香姉は顔を赤く染める。
その姿はなんとも愛くるしい。無表情な美香姉とは思えないな。
「大丈夫か?」
「う、うん」
声をかけると、美香姉はさらに真っ赤になった。
はてと首をかしげていると、愛理姉がコーヒーとジュースを持ってくる。
「持って来たよ、将君と美香ちゃん」
「ありがとな」
「それほどでも……」
愛理姉は少し照れたように笑うと、他のお客さんの所に走っていった。
もうちょっと見たかったが、美香姉につねられる前に俺は視線を戻す。
アイスコーヒーを飲みながら、美香姉に俺は劇の話をした。
「劇、結構良かったぞ」
「……からかわないで」
美香姉は赤面のまま、オレンジジュースをズズズとすすっていた。
喫茶室でくつろいでいると、理子姉と百合姉が中に入ってきた。
理子姉はたくさんの人だかりを後ろに引き連れている。やっぱり凄い。
「あれ、理子姉と百合姉」
「劇見たわよ。二人とも良かったじゃない」
「美香もよく頑張ったわ」
美香姉は百合姉に褒められたのか、少し照れてうつむいてしまう。
何だか劇をやった後だと、美香姉の雰囲気が少しだけ変わったような気が。
「……ありがとう」
「お礼を言うのはこっち。来て良かったわ」
理子姉は俺と美香姉のほうを向いて言った。
やはり理子姉はスタイルがよく、ついつい見惚れてしまう。つねられた。
「美香ちゃんも拗ねないの」
「……っ!」
美香姉はびくっとし、俺をつねっている指をぱっと離した。
その姿がなんとも可愛い。お持ち帰りしたいな……あ、俺の姉さんだ。
って何を考えていたんだ俺は。少し目を覚ませ俺。
「二人とも仲良しになったわね」
「なっ」
「……!」
俺と美香姉は同時に飛び上がり、その場にうつむく。
百合姉はその様子を見ながら、何か思いついたかのように微笑んでいた。
こ、怖い。
百合姉と一緒に、学校祭の屋台とかをぶらぶら歩き回る事になった。
美香姉は理子姉と行く事になったらしく、喫茶で俺たちは一旦別れる。
「焼き鳥はあるかしら?」
「焼き鳥ならあっちだぞ」
百合姉は俺の指差した屋台に走っていき、そこで焼き鳥を2本買った。
焼き鳥の屋台の人、鼻の下伸ばすなコラ。百合姉は俺のものだおい。
……あれ? 今俺は何考えてたんだ?
「一本食べる?」
「おう、じゃあもらっとくよ」
焼き鳥を受け取ろうとした瞬間、百合姉は焼き鳥を一個ぱくっと食べた。
……何故食べかけを渡すし。
「……」
「食べてくれないの? 将」
百合姉が少し悲しそうな顔をした。うぅ……その顔は反則だ。
俺は食べかけの焼き鳥を受け取ると、周りの空気を感じながら食べた。
関節キスとか、うらやましいとか聞こえるが聞かなかった事にしよう。
「ふふっ。何考えてるのかしら?」
「……何も考えてないぞ」
「嘘ついちゃって。でもここは正直なのね」
百合姉はそう言うと、俺の頬をちょん、とつついてきた。




