学校祭の姉 4
何だか物凄く長くなりそうな気が。
劇係の練習時間、俺と美香姉は別室で練習する事になった。
主人公とヒロインは役目が多いため、他のところに飛ばされるのだという。
「……」
「……」
お互い、無言で台本をじっと見ていた。
いかん。何か一つは練習しておかないと、家でやってるのと大差ない。
そう思った俺は、美香姉の方を向いて声をかけた。
「美香姉、最初の所を練習するか?」
「……うん」
俺と美香姉は立ち上がり、少し広い所に出てくる。
そして、台本を見ながらセリフの練習を始めた。
場面は最初。主人公がヒロインに助けられ、お互い好きになるというシーン。
「『だ……だれか……』」
「『あっ……大丈夫ですか』」
倒れている俺のそばに美香姉が駆け寄り、俺の首筋に手を当てた。
ここで脈を確認した後、美香姉は俺に簡単な治療をするという設定である。
「『……こ、これでよし』」
「『すいません。もう、大丈夫ですから』」
俺は起き上がり、美香姉の顔を見た。
美香姉も俺のほうを向き、目が合った瞬間美香姉は顔を真っ赤にする。
演技が上手だな。顔の色まで美香姉は調節できるのか。
「『……そ、その、怪我、大丈夫ですか?』」
「『大丈夫だ、こんなの……くっ』」
そう言って、俺は美香姉のほうにわざと倒れた。
ここは不意に倒れて重なるというベタなシーンだが、盛り上がるらしい。
まぁ劇係トップの話だから信用するしかないけれど。
「『きゃっ……』」
「『うぉっ』」
その瞬間、俺と美香姉のいる部屋のドアががらりと開いた。
そこにいたのは、なぜか愛理姉。こ、こんにちは。
「……しょ、将君?」
口をあんぐりと開けていて、俺と美香姉を見る目が点になってるぞ。
よく見ると、俺が美香姉の上に覆いかぶさっている光景は異様である。
「あ、その、げ、劇の練習してて」
「そうなんだ……どんな劇なんだろうね?」
愛理姉、顔が、顔が! 顔に影が付いてるよ!
台本見せるにも台本は美香姉の下に潰れちまったし。美香姉は蒸発しそうで動きそうにも無いし。
人生詰みました。みなさん今日でお別れです。
「将君と美香ちゃんがいちゃいちゃする劇……フフフ……」
「ぎゃああああ!」
愛理姉がこちらに歩み寄ってくる! 頼む、俺はまだ死にたくない!
俺は震える足で立ち上がり、そのまま後ろへと後ずさりを始めた。
愛理姉が病んでしまってる。包丁持ってないだけまだましなんだろうけど。
「ズルイよね……美香ちゃんだけ出し抜くなんて、ズルイよね……!」
「ひぃぃぃ」
壁まで追い詰められてしまった。どうするんだこれ。
愛理姉は俺の両腕を掴むと、思い切り壁にガンと押し付ける。音が。
そして怯える俺の顔を見ながら、愛理姉は不敵に微笑んだ。
「将君……お姉ちゃんのお仕置きだよ?」
だめだ。殺される。
そう思って俺は、あきらめを感じつつ目を閉じた。
「……」
「……」
何もない。
緊張感がさらに増し、神経が張り詰めた瞬間、唇に何か柔らかい物が。
……前にもこの感触、感じたことがあるな。
俺は恐る恐る、目を開ける。
「……!?」
「んっ……」
愛理姉が、俺にキスをしていたのだ。
顔に影が付きまくっていた愛理姉ではなく、いつもの愛理姉。
そして、目をつむっていた愛理姉はとても微笑ましかった。
唇を離し、愛理姉は俺の方にさらに寄り添う。
制服越しに愛理姉の体が、その、柔らかいな。
「……ところで、何で来たの?」
俺の質問に、愛理姉は笑いながら答える。
「劇の練習、ちゃんとやってるかなって」
「ったく……」
愛理姉は俺に思い切り抱きつき、小さな声で呟いた。
「お姉ちゃんのお仕置き……忘れないでね」
「……ああ」
愛理姉の顔は一転して、なんだか悲しみに満ち溢れていた。




