学校祭の姉 3
家に帰って、俺は美香姉と一緒に台本を読み合わせていた。
「えーっと、『あなたのことが、ずっと前から好きでした』……」
「……」
向かいに座っている美香姉は顔を真っ赤にして、その場でもじもじとしてしまった。その後、震える口をゆっくりと動かす。
「『わ、わたしも、好きで』……」
美香姉はそこまで言うと、机に顔を突っ伏して湯気を上げてしまった。
あー、こうなったら美香姉はもう動いてはくれないな。どうしようか。
「練習にならないな……こりゃ難しい」
一応セリフは覚えておこう。覚えないと話にならないからな。
台本を見ながら、俺は潰れてしまった美香姉の近くによった。
「む……何だこれ」
主人公とヒロインがどこまでいくかを見たが、これは凄すぎる。
これ、最後の方に抱き合うシーンが入ってるぞ。どういうことやねん。
「将……」
美香姉は寝言なのか、俺の名前をつぶやいた。
その姿さえもかわいくて、俺は少し口元が緩んでしまう。
「……」
演じると言ったら、やっぱり理子姉なのか。今度電話で聞いてみよう。
夜になり、晩御飯前に俺は理子姉へ電話をかけた。
理子姉は今、四国の方にライブのため出かけているのだ。
〈……もしもし、将君?〉
「ああ。ちょっと聞きたいことがあって」
〈聞きたい事?〉
俺は理子姉に、学校で劇係になった事と、台本の内容について伝えた。
理子姉は電話の向こうでそれを聞いた後、何か考えているのか少し黙る。
そして、向こうからはこう返ってきた。
〈自分の大切な人に置き換えてやってみるといいわよ。心が入った演技はより生き生きした物になるから〉
「心が入った……なるほど」
〈ごめんね。用事が無かったら一緒に練習してあげられたんだけど〉
いや、別にそんなことは無い。まるで俺が悪いかのようだ。
理子姉の悲しそうな声が向こうから聞こえてきて、なんだか心が痛む。
「大丈夫だよ。確か、学校祭の時は帰ってこれるんだよな?」
〈うん。将君の劇、楽しみにしてるね!〉
「おう」
その後いろんな事を話し、電話を切った俺はすぐに眠りに着いた。
「将ー、セリフ覚えてきたか?」
「読むだけで手一杯でした」
「何だよ、主人公なんだぜ主人公。そんなんじゃダメだろ」
学校で、同じ劇係となった健一と一緒に俺はダレていた。
美香姉は昨日の蒸発顔が嘘の様に、俺の少し前で本を黙々と読んでいる。
俺は本の代わりに台本を持ち、健一と一緒にこの先の展開を読んでいた。
「しっかし、いいよなぁ。お前って美香さんとするんだろ?」
「辛い物は辛いんだよ」
小声で健一が俺を茶化すが、俺は笑っている暇ではない。
俺は大分耐性がついてきてしまっているが、美香姉はゼロに等しい。
劇の時に意識を飛ばされてはたまらんから、そこを何とかしなければ。
「美香姉も台本読んでるのかな」
「大丈夫だろ。お前の姉さんは弟想いだ」
健一よ。だから心配なのだ。