くっつく姉 2
家に帰り、俺と愛理姉は台所に立った。
愛理姉は白エプロンを着て、歩く戦闘兵器と化している。
そんな愛理姉を横目に見ながら、俺は買ってきた材料をまな板に置いた。
まずは豚肉か。
「将君。豚肉切ってくれる?」
「ああ、分かった」
豚肉をパックから出し、包丁で食べやすい大きさに切り分ける。
ふと視界に、愛理姉の白くて綺麗な腕が入ってきた。
「……」
包丁で手を切らないように重点を置いて切っていく。
だが、隣から愛理姉のにおいが漂ってきた。
「……」
愛理姉は香水とかはつけない。
このにおいは、愛理姉の身体のにおいだ。
かげばかぐほどそのにおいがよく感じてきてしまい、息が荒げてくる。
「ど、どうしたの? 将君」
当の本人である愛理姉は、全くその事に気がついていないようだ。
だが、何故か愛理姉も俺と同じく息を荒げている。
しかも顔真っ赤だ。
「なんでもない」
「そ、そうなんだ」
愛理姉は俺の横に立つと、俺が包丁を置いたタイミングで抱きついてきた。
驚く間もなく俺は愛理姉に捕まり、身動きが取れなくなってしまう。
「あ、愛理姉……」
「将君……いいにおいするね」
「におい?」
「うん。将君の身体からにおいがするの」
愛理姉は俺の首筋に顔を近づけ、俺のにおいというものをかいでいく。
俺も自然と愛理姉のにおいをかいでいて、お互いに息が荒くなっていた。
途中で俺は我に返り、切った豚の方に目を向ける。
だが、愛理姉はそれを遮るかのように言った。
「私が煮ておくから、煮終わるまで2人でいよう?」
豚肉を煮るのには結構時間がかかる。
その間、愛理姉は俺を台所の隅に誘導していた。
「ここなら周りからは見えないよ」
「何をするんだ?」
「……あのさ、将君」
愛理姉は息を整えた後、俺の目をじっと見てきた。
愛理姉の茶色い髪の毛が光で輝き、その姿が聖女のように思えてくる。
しかも白いエプロン姿だったためか、天使のようにも思えた。
「私と……その」
彼女の口元が震えている。
まるで、それを言ってしまえば何かが起きてしまうかのように。
「どうしたんだ?」
俺が愛理姉に聞き返すと、愛理姉は決心したように言った。
「キス、してくれる?」
「えっ……愛理姉……」
愛理姉は俺の腕を取った。
壁際まで追い詰められた俺は何も出来ず、愛理姉を見つめるだけだ。
そして、愛理姉は俺の目を見る。
「……」
「……愛理姉」
俺はこくん、と小さくうなずいた。
愛理姉は口端で微笑み、目を細くして俺の唇を優しく奪う。
お互い抱き合いながら、互いを一生懸命に求め続けていた。
「んんっ……」
愛理姉の身体が柔らかい。
まるで、完成した後の豚の角煮のようだった。
いや、角煮のようなものは愛理姉の胸かもしれない。
やわらかい物体が俺を優しく包み込んでいるのは、紛れもない事実だった。
「……んはぁ、はぁ」
「……あぁ、はんっ」
唇を離し、俺は愛理姉と互いに見つめあう。
愛理姉が俺の胸に飛び込んできたとき、声が響いた。
「愛理もなかなか大胆になったわね」
声に驚き、俺と愛理姉はそっちのほうにがばっと振り向く。
そこには、意味深な笑顔の百合姉が立っていた。