禁則破りの臨界温度 19
次で終わり。
スイーツ店に行くと、そこにはもう既に百合姉と愛理姉がいた。
何だか2人とも気まずそうな空気を漂わせているような。
「来たぞ」
「何か頼む物はあるかしら?」
美香姉はそれを聞いた瞬間、待ってましたと言わんばかりに言った。
「DXチョコレートパフェ」
説明しよう。美香姉が頼んだメニューは、このスイーツ店でも最強の糖度を誇り、アホみたいなカロリーが摂取できる最強のパフェである。
美香姉の目には「みんなで食べよう」というメッセージが。
百合姉は口の端で笑うと、財布を持って頼みに行った。
そして奴はやって来た。
高さは40センチメートル、密度は最強。
目を輝かせる美香姉とは対称的に、俺たちは何だか微妙な気分だった。
「……おいしい」
美香姉は天に昇っていきそうなくらいの微笑みを見せた。
俺たちもそれぞれ一口ずつスプーンでとり、食べる。
「結構甘いな」
「スティックシュガー3本分?」
「流石美香ちゃんね」
そして、百合姉は不敵な笑いを浮かべた後、何だか引きずっているような愛理姉にパフェを少しとって渡した。
「えっ……?」
「ほら、食べなさい?」
愛理姉はその場でおどおどとするが、百合姉の威圧感に負け、口を開ける。
「あーん、っと」
百合姉の声と共に、愛理姉はスプーンの上にあるパフェを食べた。
愛理姉の顔は真っ赤になり、その場で百合姉に倒れ掛かるように寄り添う。
仲が良いですな。このお二人さんは。
「食べるの早いな、美香姉」
「……」
美香姉の努力のおかげか、パフェは残り三分の一になっていた。
俺はスプーンを動かし、パフェを減らす事に貢献する。
そして、俺たち四人の力を合わせ、例の巨大パフェを完食した。
美香姉は満足そうな顔である。
「何だかパフェだけでお腹一杯になりそうね」
「百合姉は別腹……なんでもないよ」
「……将、おいしかった?」
「甘すぎかな。まぁ、美香姉にしちゃ丁度良いと思うけど」
時間的に理子姉のサイン会も終わる頃だろうか。
俺たちは席を外し、サイン会会場に向かった。
車を運転している理子姉は、何だか照れくさそうだった。
「家でいくらでももらえるのに」
「並びたかった」
何故か助席にいる美香姉は理子姉のサインを両手で持ちながら微笑む。
そして後ろの席に座っている俺はというと、愛理姉と百合姉の間で。
「将君……」
「将……」
何故か2人に寄り添われている。
物凄く居辛い空間の理由は、2人の奇妙な視線と反応だ。
百合姉は愛理姉をライオンのような目で見ているし、愛理姉は百合姉と目を合わせるたびに何かを思い出すのかびくびくしている。
……物凄く居辛い。
「むぅ」
俺は少し唸ると、座席の背もたれによりかかった。
愛理姉は百合姉と視線が合うと、その場でもじもじとして外を見る。
様子がいつもと違って変だ。
「百合姉……意地悪しないでよぉ」
「もう我慢できなくなっちゃったの? 愛理?」
百合姉は俺の膝の上にひじを突き、愛理姉の太ももをつん、とつついた。
愛理姉はつつかれる度に意味深な声をあげる。
「無理だよ。もう無理」
愛理姉はそう言うと、俺の膝の上にいる百合姉にすがりつこうとした。
だが、百合姉はそれをさっとかわし、愛理姉は俺の膝の上に倒れる。
愛理姉の息遣いが荒くなっていて、俺のひざが震えた。
「危ないから背もたれによりかかってなさい」
「……はーい」
愛理姉は顔を赤くしながら、背もたれに寄りかかる。
そして、俺の肩に首を乗せた。
「ねぇ、将君。……眠いよぉ」
愛理姉は俺の左腕に抱きついてきて、それを自分の身体で大事に支える。
う、腕が愛理姉の胸に挟まれて、て、手が脚に挟まれているだと!?
手を動かそうにも、愛理姉は脚で硬く固定してしまっている。
「やぁん……そんなに刺激しないで……」
「愛理姉、これは違うんだその」
「将。素直になりなさい?」
愛理姉は目を閉じ、必死に何かに耐えている。
腕を動かそうにも、愛理姉の胸を刺激してしまうだけ。
かといって百合姉に助けを求めようとしても、百合姉が入ったら悪化する。
一体百合姉に何を吹き込まれたんだ、愛理姉。
「身体中が痒いの、将君」
「いや、だからさ、ほら、その」
困惑する俺に、愛理姉は甘い声でささやいてくる。
どうしたら良いのか迷っていると、車が止まった。
「家に着いたわよ。続きなら中でしなさい?」
「はーい」
車の中でなら自制出来たと思うが、家の中だと……不安だ。