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禁則破りの臨界温度 13

目を覚ますと、俺のすぐ目の前に理子姉の顔があった。

俺と理子姉は同時にぴくりとして、一気に顔を真っ赤へ染める。

「しょ、将君!?」

慌てて顔を離した理子姉は、砂浜に正座したまま5センチ跳ねた。

な、何をしようとしていたんだ。理子姉。

「……理子姉?」

「いや、将君が溺れちゃったから、ほら」

たじたじとする理子姉は慌てて笑顔になる。

そして、美香姉もやって来た。

「大丈夫?」

「あ、ああ。何とかな」

理子姉は何だか気恥ずかしそうだった。

「どうしてそんなに顔赤いんだ?」

「だって、その……真っ先に助けに行っちゃったから」

「気にするなよ。ありがとな」

「う、うん」

理子姉は子供の様に答えた。

大人っぽい理子姉もいいが、こういう理子姉も可愛いな。




海の人気が少ない所で、俺と未優さんは会話をしていた。

「来るのは初めてなんですか?」

〈ずっと前、ここに一回だけ来た事があります〉

未優さんは海の淵まで行くと、その場で深呼吸をする。

何だか悲しそうな顔だ。嫌な思い出でもあるのだろうか。

「……結構、前なんですか」

〈はい。……私が死ぬ、少し前です〉

ふと、旅館に預けた未優さんの弟の事を思い出した。

未優さんも同じ事を考えているのか、何だか不安そうな顔だ。

〈弟を抱えたまま、この砂浜でずっと海を見ていました〉




心の中には、不安がずっとうずまいていた。

私には弟を守ることが出来るのか、と。

「……ごめんね」

「あーうー」

私が謝った事に対し、弟は笑いながら手を振る。

波が引く音が、いつもよりも大きく聞こえた。

「……お腹、空いたね」

「あーうー」

相変わらず弟は手を振って笑っている。

砂浜に座り、弟を下ろした。

もう少しで破れそうなシャツを着てた私は、どれ位持つか心配だった。

破れたら弟の分にでもしようかと考えていた所、弟は突然泣き出す。

「どうしたの?」

抱っこしてなだめるが、一向に泣きやむ気配は無い。

恐らく、お腹が空いたのであろう。

私はポケットから、最後のビスケットを取り出して弟に渡した。

私のお腹も鳴ったが、我慢する。

「あーうー!」

弟はとても喜んでいた。

それを見ると、心が何かに洗われていくような気がする。

そして、私は立ち上がった。

「……」

「うー?」

弟を地面に降ろし、私は海へと歩く。

「あーあー!」

弟は心配そうに私に叫んだ。

私は振り返って少し微笑むと、また海の方を向く。

「……拾ってくれるかな」

ビスケット一枚あれば、多分一日は持ってくれるだろう。

私はもう限界に近い所まで我慢を続けている。

食料は尽きた。

帰る場所もない。

「ごめんね」

「あーうー!」

弟の泣き叫ぶ声を背中にし、私は海の中へと倒れこんだ。




「……そうだった、んですか」

〈はい〉

未優さんの目には涙が浮かんでいた。

きっと、前に起きたことを次々と思い出しているのだろう。

〈その後、私は浜辺に立っていました。死んだ、と思ったんですが、弟にはどうも私の姿が見えるらしいんです。それで今に至ります〉

「大変なんですね。姉さんって」

ふと、百合姉や美香姉の事が思い浮かんだ。

いつも迷惑をかけていないだろうか、少し不安になる。

未優さんはそんな俺を見てこう言った。

〈大丈夫ですよ。理子さんたちは将さんの事が大好きですから〉

「……分かるんですか?」

〈同じお姉さんです〉

未優さんは笑った。

涙の跡が残ってはいたが、何か心に決めた様子が読み取れた。

俺と未優さんは海の方を向き、じっと水平線を眺める。

「戻りますか」

〈はい。弟も心配してます〉



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