禁則破りの臨界温度 11
朝起きると、愛理姉と理子姉が隣ですやすやと眠っていた。
……うん。見なかった事にしよう。
二人の浴衣が崩れている事に気づき、俺は着替えを持ってトイレへ行った。
着替えが終わって戻った頃には、美香姉が起きて本を読んでいる。
「……おはよう」
「お、おはよう」
美香姉は俺を見つめた。
黒くて大きい瞳が、俺を引き離す事無く開かれている。
このままだと、飲み込まれる。そう思ってしまったくらいだ。
「……読む?」
美香姉が差し出した本には「ボッコちゃん」というタイトルが。
俺はそれを受け取り、しばらくパラパラとめくる。
……なるほど。そういう落ちか。
俺は自然と笑顔になっていて、本を美香姉に返す。
美香姉は微笑み、再び本をめくり始めた。
「将? 起きてる?」
少し離れた所から百合姉の声が聞こえてきた。
「ここにいるよ。もう着替えた」
「ならいいわ」
百合姉は俺の方にやって来、ってちょっと、浴衣ちゃんと着て!
慌てて俺は目をそらし、さっきの本の内容を思い出す。
えーと、村に大きな穴が出来て、だっけ?
「あら、もう。変なこと考えちゃだめじゃない」
百合姉はちゃんと浴衣を着直してくれたのか、その場に座った。
「将。今日はみんなで海に行くから、ちゃんと飲み物買っておいてね」
「ああ、わかった……海?」
「ええ。行くって言ってたじゃない」
「え、ちょ、それって……」
すいません。星新一さん。内容が飛んでいきました。
俺は首をかしげる百合姉に向かって途切れ途切れにつぶやく。
「姉さんたち、泳げる、のか……?」
「当たり前じゃない。だから海に行くんでしょ?」
あ、そういえば水着の買い物に付きあわされていた様な記憶が。
俺の人生の中でも黒歴史に入るからすっかり忘れていた事だ。
「この間買った水着を着るから、鼻血出さないようにね?」
「……」
姉さんたち、どんなの買ってたっけ。
見なくて見る振りしてたから全然覚えてないや。
車で移動し、海へと着いた。
向こう側には白い浜辺が見え、他のお客さんもいくらかいる。
天気は雲ひとつ見当たらない最高の晴れ。風も良好。
泳ぐには最適だったんだが……
「将、お姉ちゃんたちが呼んでる」
美香姉の言葉で俺は我に帰り、ふと浜辺の方を見た。
「将君! 早く泳ごうよ!」
「どれ位待たせるつもりなの?」
「泳ぐ? それとも、私と良いことする?」
姉さん……まだ水着じゃないから良いとしてだが。
俺の理性がどれくらいまで持つかが、今日の課題となりそうだ。
美香姉は朝持っていた「ボッコちゃん」などいろいろな本を入れた袋を持っている。
俺と美香姉は少し小走りになりながら姉さんたちの所へと向かった。