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無口な姉 2

 俺の携帯電話が鳴る音で、目が覚めた。慌てて近くの時計を見ると、夜の6時だ。

「うーん……もしもし」

 俺の携帯電話を掴み、電話に答える。電話の相手は百合姉だった。

「……百合姉? どうしたんだ?」

〈私、寂しい。愛理はどこか行っちゃったし、将は家にいるから〉

 電話の声が、どこか色っぽさを引きずっているように聞こえる。これはまずい。向こうで大変なことになってなければいいんだが。

「俺は行けないぞ。美香姉の面倒見ないといけないから」

〈美香の面倒? いいなぁ。帰ったら私の面倒も見て?〉

 無理だ。絶対に違うほうを百合姉は考えている。

〈あ、愛理。どうしたの……そう〉

 電話の向こうで、愛理姉が何か話しているのが聞こえた。その少し後、百合姉の声が再び聞こえてくる。

「どうしたんだ? 百合姉」

〈ごめん。今日、愛理の友達の家に泊まるから〉

「え」

〈て言う事で、今日は美香と二人で夜を越して頂戴ね〉

 絶対に違うほうを考えている。絶対に。俺と美香姉はそんな関係じゃねえ。一度だけでいいから、百合姉の思考回路を見てみたい。

「意味を取り違えていると思うけど、まあそれなりに面倒見ておくよ」

〈じゃあ、お願いね。明日の朝に帰ってくるから〉

 そう言って電話はプツっと切れた。気がつくと美香姉が起きていた。まんまるい目でこっちを見ている。

「美香姉。今日、百合姉たちが帰ってこないって」

「そう」

 美香姉はそれを聞くと、立ち上がって台所へと向かった。本当に口数が少ないな。まあ、仕方がないけれど。……にしても、美香姉は台所で何するんだろう。行ってみるか。


 俺が台所へ行った時、美香姉は冷蔵庫の中を覗いていた。

「何か作るのか? 美香姉」

「……うん」

 美香姉の料理か。ちょっと楽しみだぞ。美香姉は冷蔵庫の中から、二個の卵を取り出す。その卵をボウルに割り、さいばしで溶き始めた。

「美香姉、何作ってるの?」

「……玉子焼き」

 玉子焼きか。俺の大好物だ。だが……美香姉。砂糖を入れるのは存分に構わないのだが、量が多すぎだとは思わないのか? もう飽和しているし。

「美香姉……それくらいでやめといた方が」

「そう」

 その飽和している溶き卵を、フライパンに流し込んだ。美香姉が火をつけると、溶け残りの砂糖がどんどんしみこんでいく。そして、茶色っぽくなっているそれを巻き始めた。くるくる、くるくる。

「……上手なんだな、美香姉」

「一応」

 玉子焼きが出来た。ってどう考えても茶色くて、こげた飴だが。美香姉はそれを皿に盛り、炊飯器にたまっていたご飯をよそう。居間に、その二つを一緒に持ってきてくれた。

「食べる」

「玉子焼き一つでご飯を……まあ、食べてみるか」

 おかずの量が少ない気がした。だが、四の五の言っても始まらない。俺は美香姉が作った、茶色い玉子焼きを口の中にほうる。

「……」

「……どう?」

 口の中で、玉子焼きの中の砂糖が爆発した。これは……完全にデザートだ。絶対におかずではない。不思議なことに体中が炭水化物を求めている。口の中が逝ってるのだ。……まるで、ご飯がデザートになったかのような錯覚が残る。

「美味しいけど、デザートだよ。これ」

「私には普通」

 美香姉はそう言うと、玉子焼き一つでご飯を軽く平らげた。ひょっとして、美香姉は極度の甘党なのかも。

「……そう言えば、あのケーキは食べたのか?」

「うん」

 台所のシンクをちらっと見ると、美香姉の部屋に持っていった皿が二枚ともあった。クリーム一つさえついていない。何ともすごい平らげ方だ。

「……眠い」

 俺は急に睡魔に襲われた。美香姉は倒れこむ俺を支えて、小さな声でささやく。

「捕まえた」

 正座している美香姉のすぐそばに、薬のビンが置いてあるのが見えた。薄れていく視界は、何とかビンに焦点をあわせた。あれは……睡眠薬……だとぉ。

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