禁則破りの臨界温度 8
夜、布団で眠っていると隣に誰かが入って来た。
「……?」
布団がもぞもぞしたかと思ったら、百合姉の顔が出てくる。
赤くなっていて、酔いが回っているのがよく読み取れる。
あ、でも酔っているという事は……
「将……良い事しましょう?」
「ゆ、百合姉……!?」
百合姉は浴衣姿だった。
暗い部屋にうっすらと差し込む月明かりが、百合姉の姿を映している。
引っ張れば脱げてしまいそうなほど、百合姉の浴衣は頼りない。
「将の隣で寝るの、久しぶりね」
「あ、ああ」
「興奮してるの?」
「……」
答える言葉が見つからず、俺は無言になる。
それを見た百合姉は微笑み、俺にさらに擦り寄ってきた。
「私で興奮してくれてるのね? 嬉しいわ」
緩くなっている浴衣の間から、百合姉の素肌がこんばんはしている。
色気が辺り一帯に広がり、俺の理性を狂わせんばかりに漂った。
百合姉の吐息が俺の頬にかかり、じんわりと濡れる。
「将と一緒に夜を越したくて、楽しみにしてたのよ」
「百合姉、ちょ」
「騒いじゃダメ。他の人が起きちゃう」
百合姉の手が、俺の二の腕を撫でるかのように触れた。
頬にかかる吐息と合わさり、俺の心臓の鼓動は最大まで高まる。
百合姉の顔が、すぐ目の前にあった。
ちょ、百合姉、頼むからそれはちょっとさ、ね、百合姉?
「……」
百合姉の顔が、俺の口寸前で止まった。
百合姉は俺を小悪魔のような目で見ていて、意地悪そうに微笑んでいる。
「本当にすると思ったの? 可愛いんだから」
言われるの三度目な気がする。
俺、昔と全然変わってないな。
いや、それよりもこの状態を何とかしなければ。
百合姉が俺の横で寝ているというこの状況を。
「私を楽しませてくれたご褒美よ」
百合姉はひっそりと、俺の頬にキスをした。
甘くて少し酒の匂いが混じったキスだったが、妖しい雰囲気をかもし出す。
俺の頬は一気に真っ赤になり、息も声が出るくらいまで荒くなってしまう。
「私と将だけの秘密よ? 他の人に言ったらお姉ちゃんが容赦しないわ」
「は、はい……」
百合姉はそう言うと、満足そうに目を閉じた。
俺のすぐさま隣の所で。
「……」
「ZZZ……」
百合姉の浴衣が緩みに緩み、大事な所が見えるか見えないかまでになる。
見たい気持ちと見てはいけない、という気持ちが互いにぶつかり合った。
だが、欲望が少しだけ勝ってしまい俺は目を向けてしまう。
「……!」
浴衣の隙間から、百合姉の胸の谷間が見えていた。
下半身の方は浴衣がぐしゃぐしゃになっていて、綺麗な脚が。
白い月光で輝く百合姉の身体は、俺の脳内をパンクさせるのに十分だった。
男を堕とすために作られたのではないかと思う程の体つきは今、俺の理性を粉々に打ち砕いてしまう寸前まで追い詰めていたのだ。
朝がやって来た。
「……」
目を覚ました俺は辺りの様子を見る。
隣には……見なかった事にしよう。
「しょぉうちゃぁん」
百合姉は、浴衣を脱ぎ捨てた状態でうつぶせ寝をしていた。
顔は真っ赤になっていて、その場から動く気配は微塵も無い。
布団をかぶせた俺だったが、その理由はすぐさま浮かんだ。
「あ、将君。起きたんだ」
既に着替えを済ませている愛理姉は俺が起きたのを見て言った。
「将君の着替えはそこの袋に置いてあるから」
「おう、ありがと」
百合姉は、二日酔いになったのだ。