禁則破りの臨界温度 6
番組では、姉子温泉の伝説を数多く紹介していた。
中でも気になった事が「子育ての幽霊」という伝説。
〈理子さんは幽霊をご覧になった事は?〉
〈私はないですね。どういった物なんですか?〉
テレビを見ていた理子姉は恥ずかしさのあまりいなくなってしまった。
俺たち四人は俺のフライドポテトをつまみながらテレビを見る。
〈姉子温泉ではここ最近、女性の幽霊が見られるそうです。なんと、その女性は腕に子供を抱いていて、辺りの家々から食べ物をもらっているようです〉
辺りの家々から食べ物……あれ、弁当がないのもそれが理由?
百合姉はそれを感づいたのか、テレビに身を乗り出した。
〈子供を抱いた女性、ですか?〉
〈はい。で、調査によると……〉
進行役の人はフリップを取り出し、ぺらんとシールをめくった。
〈その女性と子供は実は姉弟で、親を先に亡くしているんです〉
理子姉が姉弟、という言葉で少しハッとした。
悟られないように理子姉は周りを見ながら顔を赤くしている。
他の人には分からないだろうが、俺たちには理子姉の動揺がすぐわかった。
〈そう言えば、理子さんには弟がいましたよね?〉
〈は、はい……〉
理子姉の声が裏返りそうになった。
マズイ。理子姉がバカ姉になるぞ。
〈姉として、その幽霊についてどう思われますか?〉
〈あ、う、あ、その、良いんじゃ無いでしょうか?〉
よくテレビで流したなこれ。
理子姉がボロボロのバカ姉になったぞ。
進行役は次のフリップを取り出す。
〈温泉の近くには洞窟があるらしくて、そこから姉弟は出入りするようです〉
番組で引っかかるポイントは三つあった。
・ 姉弟の幽霊
・ 姉子温泉の近くにあるらしい願い事の伝説
・ 何故姉弟の幽霊はいるのか
ドタバタしていた番組だったが、何とか終わった。
時計の針は丁度午後一時を指していて、まだ昼だ。
「……洞窟、行こう」
美香姉は小さな声でつぶやいた。
自分の意見に自信が持てていないのか、下を向いてしょげている。
だが、百合姉は美香姉の頭を撫でて言った。
「何落ち込んでるのよ。行くに決まってるでしょ?」
「弁当箱を返してもらわなきゃ」
愛理姉もふくれっ面になりながら言う。
その時、部屋の戸が開いて理子姉も入ってきた。
番組が終わるまで外で何やってたのだろうか。
「聞いてきたわ。洞窟に行くわよ」
「おう」
俺は荷物を持った。
姉さんたちもうなずき、自分の荷物を整理する。
車に揺られ、少し山奥に入った。
「私の記憶だとここだったはずよ」
理子姉は山道の行き止まりでGTーRを止める。
俺たちは降りて、周りを見渡した。
「そこの細い道から入るのか?」
「ええ」
理子姉は細い山道へと足を踏み入れた。
俺たちも後を追い、茂みを両腕で掻き分ける。
枝が引っかかるが、何とかして歩けるくらいの道に出る。
そして、俺たちの足は止まった。
「あれ、何なの?」
百合姉は遠い方に指を指す。
よくみると、そこには洞窟がある。
「将。ちょっと中を見てきてくれないかしら?」
「え、俺?」
「お願い。将君」
「頼めるのは将君だけなの」
「……お願い」
そこまで言われるとな……行くしか無いか。
俺は渋々洞窟の中に入る。
外から見える範囲の所に、弁当箱が落ちていた。
中は見事なまでにすっからかんになっている。
「……奥は見えないな」
俺は引き返して、洞窟の中から出た。