禁則破りの臨界温度 4
脱衣所でタオルを巻き、俺は中に入った。
……はぁ。
「……」
目の前には、バスタオル姿の美香姉が立っていた。
例によってつるぺただが、美香姉はこっちの目を見ている。
何かを訴えかけているような目が、俺の足を止めた。
「美香姉……?」
「……行こう」
美香姉は俺の手を握り、微笑んだ。
奥からは愛理姉たちの声が聞こえてくる。
温泉に入ったまでは良かったのだが。
やはり混浴でした。愛理姉と百合姉が何か喧嘩してます。
何か二人ともこっちに来た。どうしよう。
「将君? 私と、いいことしない?」
バスタオル一枚だけを身にまとった百合姉が俺に言った。
バスタオル……もうちょっと上に上ってくれぇ……
「どうしたのかしら? 人の胸ばっかり見ちゃって」
「いや、ち、違う!」
戸惑って混乱している俺に、百合姉がさらに寄ってきた。
逃げようにも、完全に視線で動きを封じられてしまっている。
「将君になら、いくらでも見せてあげるわよ?」
「ちょ、や、やめr」
「どうせエッチな事でも考えていたんでしょう? この変態さn」
その時だった。
洗面器が(ry
「ごっ」
百合姉はその場で頭を抱えると、温泉の中でしゃがみこんだ。
その後ろにはどす黒オーラをまとった美香姉が。
ま、まずいぞ……これは危険だ。
落ち着け、まず落ち着くんだ。人を書いて飲み込むんだっけ?
深呼吸する時に四秒息吸って八秒で吐くんだっけか?
「……入ろう」
美香姉は俺の隣に座った。
遠くのほうから理子姉と愛理姉もやって来る。
「あら、美香ちゃんどうしたの?」
「……」
どうやら拗ねてしまったらしい。
頭を抱えている百合姉は反省したのか、その場でうずくまったままだ。
「ここの温泉、いいね」
愛理姉はつぶやいた。
最初は色々あって見れなかったが、景色を落ち着いて見る事が出来た。
遠くには海が見えていて、キラキラと光る水面に青空が映る。
「……そう言えば、理子姉の出る番組やるの今日だっけ?」
「そうだったわね」
理子姉は温泉に浸かりながら思い出したように言った。
ここ辺りについて話をする内容らしいけれど。
「将君。もう少し寄って良いかな」
愛理姉が言った。
脳裏をトラウマがかすめるが、俺はうなずく。
同じ失敗をしなければいい話だ。それだけなのだ。
「理子姉も、のぼせないうちに出たほうがいいと思うぞ」
「そうするわ」
理子姉は立ち上がった。
バスタオルが理子姉の身体に張り付き、ラインがくっきりと浮かぶ。
「……ぁ」
美しかった。
長く、綺麗にまとまっている黒髪。
生体的な美しさを持ったスリーサイズ、すらっと伸びた長い脚。
理子姉の身体が、空気が、雰囲気が。全てが、一流だった。
「どうしたの? そんなにこっちを見て」
「……何でも」
「フフ。じゃあ、先に上がってるわ」
理子姉はそう言うと、温泉から出て行った。
左隣の美香姉も何も言わずに去っていく。
「みんな上がっちゃうんだ」
愛理姉は寂しそうにつぶやいた。
正面で頭を抱えていた百合姉はやっと復帰した様子で。
「痛い……」
「美香ちゃんの前で胸の話をしちゃだめでしょ。百合姉」
愛理姉はふくれっ面になった。
百合姉は申し訳なさそうに俺のほうを見てくる。
上目遣い。……に、胸の谷(ry
鼻血出してもおかしくない位だが、大分ここでの生活に慣れたのか。
俺は目をそらすという方法を編み出したようだ。
「……今度からあまりそう言うことはよしてくれ」
「はーい」
百合姉は残念そうにしながらつぶやいた。
愛理姉は俺の腕を取る。
「将君、意外に筋肉あるね」
「そ、そうか?」
「カッコイイよ。将君」
愛理姉は俺の腕をぎゅぅっと抱きしめていた。
……上腕二頭筋が、今度は愛理姉の胸にふにっ、ふにっ。
お前、幸せ者だな。
……と考え、あらぬ妄想をしないように他のほうを向く。
「私も見たいわ」
誰もいなくなった左隣に、百合姉が座った。
左腕を取り、ふにっ、ふにっ。
目のやり場が正面しかなくなったが、正面には海が広がっている。
見る物といっても、飛んでいる鳥くらいしか。ウミネコかなあれ。
「……」
両腕の感触で意識が遠ざかりそうだ。
何とか飛んでいきそうになる意識を繋ぎとめ、その場でうとうと。
気が付いたら、俺は愛理姉のほうに倒れ掛かっていた。
「しょ、将君!?」
愛理姉が慌てて俺を起こす。
百合姉が俺の肩を掴み、がっと体制を戻した。
だが、それがいけなかった。
「……あ」
バランスを取ろうとして俺が出した手が、愛理姉のバスタオルを(ry
手に一枚の布を掴んだ俺は、その場で呆然とした。
だ、大丈夫だ、ギリギリの所で俺には見えてない。
「……」
「……」
「……」
上がろう。