禁則破りの臨界温度 2
姉子温泉に着いた。
「起きなさい。将」
百合姉の声が聞こえ、眠い目をこすりながら車の中から出る。
愛理姉は何事もなかったかのように眠そうにしていた。
「ほら。部屋に行くわよ」
既に美香姉と理子姉は荷物を持っている。
俺は姉さんたちに付いて行き、姉子温泉の中に入った。
姉子温泉は、宿も兼ねている。
とりあえず予定上、俺たちはここで三泊四日の生活をするのだ。
そのためなのか、姉さんたちはいろいろな物を持ってきている。
温泉に入る前に、少しだけ時間を潰そうではないかという考えらしい。
中でも印象が強かったのは……
「……将、やろう」
美香姉が持って来た、ぷよぷよだった。
部屋にあったテレビにゲーム機をつなぎ、ぷよぷよをスタートさせる。
「俺がやるのか」
美香姉と俺がやってみた。
ぷよぷよが降り始め、俺と美香姉はそれぞれぷよを置いていく。
「……」
他の姉さんたちも身を乗り出しながら、ぷよぷよの行方を見た。
美香姉は順調にぷよを積んでいき、もうすぐで連鎖が起こせる。
俺は既に15連鎖の準備を終わらせ、美香姉の様子を伺っていた。
「……もう少し」
必死にぷよを積んでいく美香姉は可愛かった。
何とかおじゃまぷよが出現しないよう、配慮して俺は積み上げていく。
「将、頑張って」
「美香ちゃん、がんば!」
「いけーっ!」
美香姉の連鎖の準備が終わった。
ほっと安堵する美香姉の顔を見て、俺の顔も緩んでしまう。
その時。
「あ」
導火線に、火がついた。
ぷよがちょうど空いているところにぽん、と入る。
一連鎖。
美香姉の顔が凍りつく。
二連鎖。三連鎖。四連鎖。
「……あはは」
美香姉の手が震えた。
後ろの姉さんが息を飲むのがわかる。
五連鎖。六連鎖。七連鎖。八連鎖。
「……」
美香姉の目の端に、涙が溜まってきた。
九連鎖。十連鎖。十一連鎖。十二連鎖。十三連鎖。
「……ぐすん」
もはや言うまでも無いだろう。
十四連鎖。十五連鎖。十六連鎖。
「……まだ残ってる」
そうだ。美香姉にはまだ一箇所、ぷよの連鎖スタート地点が残ってる。
そこに入れれば、九連鎖だ。
だが、神はそう甘くしてはくれなかった。
おじゃまぷよの天井三枚分が、画面の上から降ってくる。
「……!」
埋まった。
美香姉の希望が、なくなった。
「……」
声も出なかった。
美香姉は必死に頑張るも、連鎖を起こす事無く敗北。
勝った俺も、何だか複雑な気分だった。
いや、その……勝った事は嬉しいんだが、何なのこの空気?
「……うわぁぁぁぁん!」
そして、美香姉が泣いてしまった。
俺の膝に顔を突っ伏し、そのまま滝のような涙を流す。
周りの姉さんからの視線が、痛い。
「ほら、美香姉」
俺は美香姉を起こすと、優しく頭を撫でてあげた。
だが美香姉は一向に泣きやまない。
……本当に小動物みたいだな。美香姉って。
「弱ったな……」
小動物、か。
俺は自分のカバンの中から、ハムスターの人形を取り出した。
いつの日か、美香姉にあげようと思って買った物である。
「美香姉、はい」
「……?」
美香姉は泣きやんだ。
ハムスターの人形を手に取り、じっと見つめる。
そして、俺の方を向いてにっこりと笑った。
笑顔がまぶしくて、失明してしまいそうなくらいに。
「……ありがと」
「ごめんな」
美香姉はそれだけを言うと、俺にゲームのコントローラーを渡す。
2Pの方を見ると、理子姉がスタンバイしていた。
「将。私にやり方教えてくれない?」
後ろから、百合姉の声が聞こえる。……嫌な予感しかしない。




