禁則破りの臨界温度 1
第3期が始まるまで、夏休み企画としてブログに公開した「白金家の日記 -禁則破りの臨界温度ー」をこちらでも公開することにしました。位置的には「ポニーテールな姉」の後です。
一度見た方も、夏を思い出すついでに見てはいかがでしょうか。
――夏。
待ちに待った、この季節がやって来た。
綺麗な青空。
青く、美しい海。
そして、緑色に包まれている山。
全てが生き生きとしていて、俺たちに力を与えてくれる。
「昨日のドラマ、将君は見て無いの?」
「ああいうドロドロしたのはちょっとな」
「えーっ。私も理子姉たちと一緒に見てたのに」
理子姉の運転する車でどれくらい揺られていたのだろうか。
右に見える海は太陽の光で、早く来いと言わんばかりに輝く。
ふと、それを見ていた愛理姉が口を開いた。
「通信簿、どうだった?」
いきなりそれの話題か。
通信簿ね……そんなに悪くないはずだったんだけどな。
「あんまり覚えてないな」
「そう言うと思ったよ。将君」
愛理姉は何かごそごそと、車の後ろのほうをあさった。
「おい、愛理姉、まさか」
「持って来たよ!」
たんたたーん。
そんな感じの効果音がなりそうな感じに愛理姉は通信簿を見せた。
書いてあるのは「白金 将」。まさに俺の名前じゃないか。
「勝手に見るな!」
「いいじゃん。……おっ、結構良いね」
俺の抗議も届いていないらしく、愛理姉は中を見ながらニヤリと笑う。
なんだその顔は。何か文句があるとでもいうのか。
「理子姉ー。将君の数学3だってー」
「評価を言うなよ!」
この車を運転していた理子姉、笑ったような気がする。
車のスピードが一瞬遅くなったぞ。
「あんまり言わないでね。愛理。将君がかわいそうよ」
「将君頭良いし」
いや、俺3だから。もっと頭いい人いるから。
「……私は5」
そう言ったのは、俺の左隣にいた美香姉だった。
美香姉も通信簿を持ってきていたらしく、俺と愛理姉に見せる。
「……!」
「なにこれ」
国語、数学、理科、社会、英語。
実技を除いた全ての評価が5だった。
呆然とする俺たちを横目に美香姉は通信簿をしまい、その場でうとうと。
愛理姉は少し悔しそうにした後、その場でうたた寝をしてしまった。
百合姉はというと、助席で既にぐっすりと眠っている。
「理子姉。どこに行くんだっけか」
「海と山に挟まれた所にある、姉子温泉よ」
「へぇ」
姉子、か。
漢字の配置から、姉の子供。……いろんな意味で考えたくは無いな。
そのまんま「姉御」で姉さんたちを呼べる気もするが、やめとこう。
「しばらく山道よ。寝てなさい」
「ああ」
俺は座席に腰掛け、その場で目を閉じた。
すると、右肩に何かを感じる。
「……?」
薄目を開けて見ると、右隣では愛理姉が頭を俺の肩にこてんとしていた。
「将君……」
うっすらと寝言も聞こえてくる。
耳元を愛理姉の言葉がくすぐり、思わず顔が赤くなってしまう。
「大好き……」
その声を聞いた瞬間、心臓の鼓動が異常なほど加速した。
俺の額からは冷や汗が吹き出し、背筋が一気に凍りつく。
「愛理姉……」
声にならない声を出しながら、俺は目を閉じた。
眠るんだ。どうにかして眠りに付くんだ。
だが、右隣の愛理姉はそれをさえぎるかのごとく寝言を言う。
「お姉ちゃんが教えてあげるね……」
そして、身体中が動かなくなった。
寝言をつぶやき続ける愛理姉の身体は徐々にこちらへ傾いてくる。
前に座っている理子姉はそれに気づいていない……!
「将君……」




