引きこもる姉 2
休み時間、学校で健一に話を聞いていた。
「美香さんが引きこもり?」
「出てこないんだよ。三日前から」
俺が引っ越す前から美香姉を見ている健一なら何かわかるかもしれない。
そんな気がしたからこういう会話となっている。
「俺が来る前に一回あったらしいけど、覚えてるか?」
「ああ。学校に数日くらい来なかった事があったな。そういえば」
「そうか……」
反応を見ていたところ、健一は何も知らないらしい。
美香姉、一体どうしちまったんだ?
家に帰った後、俺は美香姉の部屋の前に立っていた。
もし万が一風邪など引いていたら大変だが、その様子もない。
「美香姉ー? 大丈夫かー?」
反応が無い。
これで四日目だ。もし中で美香姉が倒れていたら大変な事になる。
急に心配になり、俺は美香姉の部屋のドアノブに手を触れた。
「……」
いや、美香姉とは言えど俺の姉。勝手に入って良い物なのか。
だけど、入らなければ一生後悔するかもしれない。うん。
入ろう。
「……美香姉、入るぞ」
ドアノブを捻り、俺は美香姉の部屋の中へ入った。
中は、前に入った時よりも雑な物になってしまっていた。
「……美香姉?」
慌ててベッドに目をやると、そこにはこんもりと山が出来ている。
近くには食べた後のカップラーメン、非常食、水、ジュース。
ゴミを踏まないように配慮して、俺は美香姉の所へ駆けた。
「美香姉、美香姉!」
頭の中を、布団の中で力尽きた美香姉の姿が駆け巡る。
嫌だ。絶対に、絶対にそんなはずは……!
布団を慌てて剥ぎ、俺はその場で息を切らした。
「……美香姉!」
「将……」
布団の中で縮こまっていた美香姉は、俺の方を弱弱しい瞳で見ていた。
いつものこちらを串刺しにするような瞳ではない。
美香姉は手をこちらへ伸ばし、振るわせながら手招きをした。
「来て……」
「……うん」
俺は美香姉の隣に来て、ゆっくりと横になった。
再び布団を敷き、俺と美香姉は布団の中で見つめあう。
「……将。来てくれてありがとう」
「ど、どういたしまして」
美香姉はそう言うと、俺にそっと身体を寄せてきた。
「……美香姉、一体どうしたんだ?」
「知りたい?」
美香姉は布団にもぐると、中から一冊のアルバムを取り出した。
「アルバム?」
「見て」
開くと、中には一人の赤ちゃんの写真がある。
これは……誰なんだ?
そう不思議に思っていると、美香姉はどこからか白紙を取り出す。
そして、そこに何かを書き始めた。
「誰、なんだ?」
「将」
「……えっ?」
この、写真に写っている赤ちゃんが、俺?
何でここにあるんだ? 俺は写真を持ち込んだ覚えなんか無いぞ?
「美香姉、どういうことなんだ?」
「これ」
紙には、家計図が記されていた。
そして、そこにはとんでもない事実が記されている。
内容を理解した頃には、俺はその場で愕然としていた。
「……嘘だろ」
「嘘じゃない。これが、本当の私たち」
家計図は、俺たち姉弟の関係を事細かに記していた。