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ポニーテールな姉 2

理子姉のライブシーンはぶっ通しでお送りするため、結構長いです。

仙台駅に着いて、バスに乗り換えた。

そして気が付くと、俺たちは宮城スタジアムの前に立っている。

人がたくさん集まっていて、あちこちからは歓声が聞こえていた。

「早く行くわよ」

「はーい」

百合姉と愛理姉はきゃぴきゃぴ騒ぎながら行ってしまう。

二人のポニテがひょこひょこ、さらさらと揺れていた。

可愛いポニテと大人のポニテの夢の競演。ナンテコッタイ。

我に返った俺は美香姉と一緒に、二人の後を追いかけていった。


ライブ会場の座席は何とか確保できたらしく、俺たちはそこに座った。

現在の時刻は午後三時。ライブは夜まで行われるのだ。

辺りにはハンバーガーなど、ファストフードの匂いも漂っている。

「食べ物は買ってきてあるわよ。心配しないでね」

「ありがとな。百合姉」

「どうしたしまして」

席の配置は左から百合姉、俺、愛理姉、美香姉だ。

愛理姉は身をかがませ、ライブのパンフレットを出した。

ポニーテールが前に出て、愛理姉のうなじが綺麗に映える。

白くて透き通りそうなうなじは光で反射し、俺の心拍数を上昇させた。

「あとは始まるまで待つだけね」

「ああ」

「楽しみだね。将君」

「……」

先日のことが浮かんで美香姉の方を見たとき、美香姉と目が合った。

俺が美香姉に微笑むと、美香姉は若干困ったような顔で微笑み返してくれた。


愛理姉とパンフレットを見ていると、がやがや声が少なくなった。

ライブが始まる時間だ。

「どんなパフォーマンスなのかな。理子姉」

「理子姉はライブだと化けるからな」

辺りが真っ暗になる。

そして、青白い光が現れた。

「……?」

光は暗闇の中を一直線に点き、その間に道を作り出す。

そして、その間に一人の女性が立った。

長い黒髪、洗練されている美しい体型。そして観衆の声。

理子姉のステージが、幕を開けた。


屋根には星が映し出され、ピアノの音が流れる。

宇宙のような空間の中央に理子姉は立っていて、マイクを握った。

織姫のような服装をしていて、七夕を髣髴とさせる。

そして、理子姉は歌い始めた。

透き通ったような声がゆっくりと、織物の様に会場内を広がっていく。

「……!」

理子姉の周りに白い光が発生し、観客と理子姉の間まで動いた。

まるでそれは天の川。ミルキーウェイとはよく言った物である。

宇宙と化した会場内を、理子姉の声だけが駆け抜けていく。

そこは、神秘だった。

何とも言えない、あの神秘的な感情。

全ての人を許してくれるような女神に、理子姉はなっているのだ。

「……今日は、七夕です。天の川も、織姫と彦星の間を邪魔など出来ません」

曲の合間に理子姉はそうつぶやいた。

その瞬間白い光は消えて、俺たちと理子姉の間を阻むものは無くなった。

映し出される星も輝きを増し、宇宙にいるかのような錯覚を引き起こす。

理子姉の声は、観客全てを異世界へと誘っている声だった。

「……凄いな」

ほんの小声だったが、俺は思わずそうつぶやいていた。

脳で波が引くような感覚になり、何も言葉が出てこなくなる。

織姫の声は、確実に彦星へと届いていた。

「……新曲のKind World。聞いてくださって、ありがとうございました」

あちこちから割れんばかりの拍手が起こる。

だが、俺は拍手をする事が出来なかった。

「……」

身体が、これっぽっちも動かなかった。

理子姉の世界は、俺の脳、心、身体、全てを圧倒してしまったのだ。


宇宙の後は、真夏の海だった。

半そで短パンの理子姉が現れ、一気に会場のボルテージは急上昇する。

スタジアムの屋根は開いて光が入り、会場内に砂浜が出現した。

「みんな、行くわよ!」

観客の声援が天を貫き、理子姉は砂浜の中央に立った。

太陽よりも明るく、輝いている理子姉は最高の笑顔で歌う。

俺の身体中には震えが走り、鳥肌が止まらなかった。

「理子姉!」

隣の愛理姉はポニテを縦にひょこひょこ揺らしながらジャンプする。

他の観客も立ち上がっていて、思うがままの言葉を発していく。 

曲の合間に理子姉は右手を回し、さらにボルテージを引き上げた。

灼熱の夏が、太陽が、全てが。理子姉のライブを構成していたのだ。

「きゃあああ! 理子姉!」

愛理姉と美香姉が歓喜の声を上げた。

理子姉がこっちの方を見て、ウインクしたのだ。

百合姉は俺の左腕を掴み、そのままぴょんぴょんしている。

長いポニテが俺の左肩に乗っかり、ふさふさとした毛が首をくすぐった。

「最高ね! 将!」

「……ああ!」

エレキギターの音が絶妙なところで響き、全体のボルテージを上昇させる。

そして理子姉は最後、誰よりも美しい笑顔になった。

俺の頭の中で理子姉に抱かれた事が思い浮かび、思わず顔を真っ赤にする。

頭の中は真っ白になり、理子姉の美しさだけが身体全体に入り込んでいった。


ライブの終盤では、理子姉はこんな事を言った。

「今日はみんなの前で、新しい事に挑戦しようと思います!」

観客はおおっ、と期待の声をあげる。

そして、理子姉は一つの黒ゴムを取り出した。

「髪型を、こうして……こうかな?」

理子姉は、髪型をポニーテールにした。

黒髪は光で輝き、ポニーテールは肩より少し長いくらいだ。

自信がなさそうでしょんぼりしているが、それがまた理子姉の可愛さを生んでいた。

「可愛い!」

「きゃあああああ!」

「理子姉!」

姉さんたち、はしゃぎすぎです。他の観客も同じ事言ってたけど。

と思う俺も、身体中から興奮を抑えきる事が出来なかった。

あの強気な理子姉が、ポニーテールで少々弱気になっている。

みんなから可愛い、と言われて顔を真っ赤にする理子姉はこう言った。

「あ、あの、ありがとうございます、その」

緊張したのだろうか。口が回っていない。

「えーと、じゃあ最後に一曲、歌います!」


ポップな曲調の曲が流れ、理子姉はポニテを揺らしながら踊り始めた。

ふりふり、ゆさゆさ、ひょこひょこ。

ポニテがあっち、こっち、そっちへと揺れ、俺の脳内はお花畑になった。

「理子姉可愛い!」

愛理姉はもうオーバーヒート寸前だった。

百合姉の顔もニヤニヤしてきて、俺の左腕を思い切り抱きしめる。

美香姉は動物を見ていた時のような、ふにゃぁ、という笑顔だ。

会場全体が、理子姉に萌えていたのだ。

「ゆっさゆっさ、ぽにぽに」

理子姉は間奏部分でそう言った。

観客は「可愛い!」の声で埋め尽くされた。

俺のちょっと前の人は鼻血を出して倒れてしまう。

ポニテの理子姉は、恐ろしいほどの破壊力を持っていたのだ。

ライブは黄色い歓声の中、終わりを告げる。

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