ポニーテールな姉 1
「失変カフェ」とコラボさせていただきました。
ポニーテールフェスティバル2012出展作品。
睡眠薬で眠らされた四日後。
理子姉のライブに出かける前の出来事である。
「美香姉、勉強終わらん」
「……教える」
美香姉と俺は、山のようにある学校の宿題を睨みながら机に座っていた。
扉が開き、愛理姉が中に入ってくる。
「飲み物持って来たよ」
「おう、ありがと……!?」
振り向いた瞬間、俺の視線の先は愛理姉に固定されてしまった。
カルピスが乗ったお盆を持った愛理姉はこっちを見て首をかしげる。
愛理姉は、髪型をポニーテールにしていたのだ。
「どうしたの? 将君」
「い、いや、髪形、変わったな、って……」
愛理姉は机の上にお盆を置くと、自分のポニーテールに触れた。
長さは肩にかかるかかからない程度。
だが、ひょこひょこと揺れ動くそのポニテは俺の心を高揚させてくれる。
「……将。勉強」
少し不機嫌になったのか、美香姉は俺に言った。
俺は慌てて机に向き直り、シャーペンを握る。
「置いておくね」
ポニテの愛理姉はカルピスの入ったコップを机に置いた。
その時、愛理姉のポニテがちらと視界に入る。
……集中出来ん。
「……」
ノートに顔を突き合わせたが、問題の内容が頭に入らない。
愛理姉のポニテがふりふり、ゆさゆさと揺れる光景が頭に浮かぶのだ。
……もう無理だ。何も手を付けられん。
「美香姉。悪いけど、そろそろ休憩して良いか?」
「……うん」
そりゃ、まぁ三十分間頑張れたから良い方なんだけど。
その数分前。
「……」
ネットの検索結果には、「男子に聞いた! 人気髪型ランキング」が。
そこをクリックすると、ランキングが表示された。
「む……」
第一位には、なんとポニーテールが。
「将君、ポニーテールは好きなのかな」
でも、自分の髪の長さでは作る事が出来るのだろうか。
自分の髪に触れて、長さを確認する。
「……出来るかな」
鏡の前に立ち、黒いゴムを持ちながら後ろの髪を上げた。
長さ的には、肩にかかるかかからないか位だ。
「うーん」
「……ごめんね。今日は休むわ」
俺と美香姉が居間に来た時、百合姉が電話を切った所だった。
ポニーテールの愛理姉もやって来る。
「あら、愛理。今日はポニーテールなの?」
「うん」
愛理姉は嬉しそうに飛び上がった。
ポニーテールがひょこ、と縦に揺れ、うなじが見え隠れする。
それを見た俺は思わず口元が緩んでしまった。
「ライブに行く支度、整ったかしら?」
「いつでも行けるぞ。……宿題はまだ終わってないけどな」
「……行こう」
美香姉は口元でかすかに微笑みながら言った。
百合姉と愛理姉は微笑み、荷物を持った。
新幹線に乗り、仙台駅へと向かった。
俺は百合姉の隣の窓際に座り、外の風景を眺める。
「……ん」
俺の左ひざの上に、百合姉の手が置かれてあった。
百合姉のほうに視線を向けると、そこにはポニーテールをした百合姉が。
ポニーテールをしても腰まで届くその髪は光で白い輪を作っている。
「あれ、百合姉も?」
「ええ。意外にやると楽しいわね」
百合姉のポニーテールは、こっちに首を動かす時にさらりと流れる。
窓からの光が差し込み、その流れるような髪に輝きを与えていた。
「どうしたのかしら?」
何も言葉を発する事が出来なかった俺は我に返った。
いや、しかしな……これは何も言えなくなっちまうだろ。
「何でもない」
窓に視線を向けた俺の脳裏に、百合姉のうなじが浮かんでいた。
そんな俺を見て百合姉は不敵に笑い、ひじで小突いてくる。
「照れなくて良いのよ? 健全な男の子の証拠なんだから」
「それを言うな」
その時、百合姉は俺の耳元に寄った。
「私のポニテをずっと見ていると、我慢出来ずに私を襲っちゃうとか?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に顔を赤くしている百合姉が浮かんだ。
服を剥がれた下着姿まで行くが、俺はそこで妄想を強制終了させる。
ただでさえ危険だというのに、新幹線の中だ。それはまずすぎる。
「それは絶対に無い」
少し大きめの声になってしまった。
前の席にいる愛理姉と美香姉は?のマークを浮かべている。
悟られるとまずい。俺は何もなかったかのように窓の風景を見た。
「……」
しかし、愛理姉のポニテと百合姉のポニテが脳裏から離れない。
愛理姉のポニテはひょこひょことして、とても可愛いポニテだ。
百合姉のポニテは長くて上品な、大人のポニテである。
美香姉は……流石に無理か。ポニテにしたらしっぽが五センチ位だ。
新幹線はまだ、那須高原を通過した所だった。