不安な姉 2
俺の分の夜ご飯は、美香姉が持ってきてくれた。
美香姉がご飯を箸でつまみ、俺の口元へと運んでくる。
恥ずかしい事極まりないが、腹が減っては何も考えられない。
「……可愛い」
美香姉は俺が口をつけた箸で、自分のご飯を食べる。
おい。それ、ちょっと待て。
「……将の味」
「美香姉、それはちょっと」
「甘い」
俺は口元を動かし、美香姉に腹いっぱいだ、と伝えた。
美香姉は箸とご飯を置くと、俺の隣に寝転がる。
「……」
「……」
かすかに動くようになった手がしびれる。
脳裏を、様々なものがかすめていった。
「……」
料理をしている愛理姉を見ていない。
理子姉の出ているCMも見ていない。
百合姉の度が過ぎた誘いも受けていない。
全てが、美香姉に捧げられた、とでも言えばよいのだろうか。
いや、違う。
「……」
美香姉が俺を束縛した、とでも言うのか。
美香姉の悲しそうな顔が頭の中に浮かぶ。
「美香姉……」
隣では何も反応が無い。寝たのだろうか。
身体が動くようになった。
朝の五時くらいにゆっくりと起き、辺りを見回す。
「……」
美香姉の部屋にはカレンダーがないのだろうか。
やっとの思いで見つけたデジタル時計のカレンダーは月曜日を指している。
美香姉の部屋から出ようとしたが、何かが俺を引きとめた。
「……美香姉」
ベッドの上で寝ている美香姉の目から、一筋の涙が流れていた。
生活感があまり感じられない部屋の中で、唯一変化があるベッド。
美香姉にとっての一日の始まりであり、終わりでもある所。
そこだけが、俺の視界に入っていた。
美香姉が目を覚ます。
「……将」
寝ぼけた目をこすり、俺の方を見る。
俺はドアノブにかけている手を下ろした。
美香姉のほうを向き、優しく微笑む。
「よく眠れた。ありがとな」
「……」
美香姉はベッドから出た後、俺に思い切り抱きついた。
涙が溢れている目では、苦悩や悲しみのダムが決壊している。
「助けて」
「俺は、ずっと美香姉のそばにいる」
前にも同じセリフを吐いたような気がするが。
「無理はするなよ。俺は悲しい美香姉を見たくない」
何だかカッコつけなセリフが入ってしまった。
だが、それが功を奏したのだろうか。
美香姉は涙を拭き、真っ赤になった顔で俺を見て微笑む。
「……可愛いな」
「ありがと」
美香姉は心からの笑顔を見せてくれた。
俺は美香姉にうなずくと、美香姉の部屋から出る。