不安な姉 1
目が覚めた。
美香姉のベッドに俺は寝転がっていて、頭はまだ朦朧としている。
起き上がろうとした時、俺は恐怖に似たものを覚えた。
「……!」
身体が、動かない。
「……起きた?」
視線を右にずらすと、そこでは美香姉が横になっていた。
温かい目でこちらを見ているが、その目の奥には何かがある。
「美香姉、やめてくれ……」
「嫌」
頑張って口を動かして発した言葉は、美香姉の一言でさえぎられてしまった。
美香姉は俺の事を見て微笑むと、腕に抱きついてくる。
「……一緒だよ」
狂気。それが、俺を押しつぶそうとしている。
そこにいるのは、俺が大好きな美香姉。
それはわかってる。わかってるのに、恐怖を感じてしまう。
「……将、怖いの?」
俺は言葉にならない声を出しながらうなずく。
「……大丈夫。私が守る」
美香姉の吐息が首にかかる。
……美香姉も、何だか興奮しているのか?
辺りに視線を泳がせると、床には一冊の雑誌が。
あれは……睡眠薬の雑誌? 通販で買ったとでもいうのか?
「……ずっと、一緒」
美香姉は小動物だと思っていた。
だが、違う。美香姉は小動物のような物では無い。
どこかで聞いたことがある。
毒で相手を弱らせ、動けない隙に襲い掛かる動物を。
美香姉はそんな感じの人物なのだ。
だが、今気づいても時既に遅し。美香姉は俺を覗き込んでいる。
「将は、私の事嫌い?」
「俺は……美香姉の事、好きだ」
断ったら何をされるかわからない。
嘘をつくわけでもないが、額には冷や汗が流れる。
美香姉は無表情のまま、右手を俺の左肩に置いた。
その時、美香姉の部屋にノック音が響く。
「美香ちゃん? 夜ご飯食べよう?」
愛理姉の声だった。
美香姉は俺が大声を出せない事を知ってなのか、その場で言う。
「後で食べる」
「わかった」
愛理姉の足音が遠ざかって行った。
腹が減っているわけではないが、代わりに頭が痛くなってくる。