病気な姉 4(終)
私は、愛理と一緒にポッキーの箱をながめていた。
「百合姉……?」
愛理が、いつも以上に可愛く見える。
寝ぼけているかはどうか分からないが、理性が溶けてしまいそうだ。
「愛理……」
私は気が付くと、愛理を抱いていた。
愛理は小さくひゃ、という声を出して小さくなる。
それがまた可愛くて、独り占めしたくなる衝動に駆られてしまう。
「お姉ちゃん……」
愛理は私に抱きついてきた。
私はテーブルの上に置いてあるポッキーの箱を開ける。
中から一本のポッキーを取り出した。
「食べる? 愛理」
「うん」
愛理も、私も、どちらも興奮しているのだろうか。
理性などどこかへ吹っ飛んでいってしまったかのようで、抑制が効かない。
お互いの息が顔にかかり、頬を濡らす。
心臓の鼓動が激しくなり、脳内をあられもない妄想が駆け巡る。
意識が消えた。
私の目の前で、百合姉はばったりと倒れた。
百合姉を抱き枕にして私は横になっている。
さっきの事はあまり触れたくは無い。
ただ、自分でも拒否しようとは思わなかった。
「……」
もし今私が将君を抱いているとしたら、こんな気持ちだったのだろうか。
違う。
この気持ちは、絶対に普通では無い。
常道から外れた、抑制の聞かない感情が私の中で渦巻いている。
百合姉を抱きしめている事でしばらくは我慢できそうだが、分からない。
いつ自分が暴走して、自分でなくなってしまうかが。
将君の声が聞きたい。
「将君……」
将君は、こういうのをどう思うのかな?
しばらくした後、俺は戸をこっそりと開けた。
「……」
愛理姉が百合姉の胸に顔をうずめている。
どちらも寝息をたて、すーすーと眠っているようだ。
玄関のドアが開く音が聞こえ、美香姉も中に入ってくる。
「……お姉ちゃん、ご飯」
美香姉は寝込んでいる二人を起こそうとした。
だが、途中であることに気づいて俺の方に手招きをする。
「……?」
俺は美香姉の方に歩み寄った。
美香姉は少々強引に百合姉と愛理姉を引き離す。
そして俺が来た事を確認すると、いきなり俺を引っ張り倒してしまう。
「おわっ……!?」
俺は愛理姉と百合姉の間にすっぽりと入った。
美香姉は口元に微笑みを作り、そのまま部屋から出て行く。
「……あ、将君!?」
「あら?」
愛理姉と百合姉が目を覚ました。
二人ともまだ具合が悪いのかぼーっとしているらしく、辺りを見回す。
……美香姉ぇ。どうしたらいいんだよ……
「将君、ごめんね。でも、風邪は治ったよ」
「私こそ」
二人とも申し訳なさそうに俺にすがり付いてきた。
びくびくとしたまま俺はその場で耐えるが、二人はさらに強く抱きしめる。
「……大好きよ。将」
百合姉のほうからそんな言葉が聞こえてきたような気がした。
俺も具合が悪くなってきたのだろうか。
「……ぷはぁ」
俺の意識は遠いところへ吹っ飛んでいった。
夜、俺は自分の部屋のベッドにいた。
寝転がりながらふと、愛理姉と百合姉の事を考える。
「……」
その時、ドアが開いた。
起き上がると、そこには美香姉が立っている。
悲しそうな表情だった。
「どうした? 美香姉」
「……もう、嫌」
美香姉はそれだけをつぶやくと、俺のベッドの上に立った。
俺を上から見下ろすようにして、上から俺の肩を押さえつける。
「み、美香姉……!?」
「……将。好き」
張り詰めた空気が流れた。
美香姉の瞳は大きく開かれていて、俺は視線をずらす事すら出来ない。
俺のことが、好き?
「……誰にも渡さない」
その瞬間、俺の口元に一本のビンが突っ込まれた。
液体をがぶ飲みする羽目になってしまい、ビンを持った美香姉は笑う。
口から空のビンを引っこ抜き、美香姉はささやいた。
「私が面倒を見てあげる」
そして、俺の意識が消えた。