病気な姉 1
「おはよー、愛理姉」
「おはよ、げほげほ」
台所で料理をしている愛理姉は咳をしていた。
おたまを持つ手が震えていて、顔も少し紫色になってきている。
……風邪、ひいたのか?
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、将君」
笑顔になった愛理姉だったが、また咳き込んでその場でうずくまった。
起きて来た美香姉はそれを見かねて、マスクを持ってきてあげる。
「……これ」
「ありがとうね。美香ちゃん、げほ」
愛理姉はマスクをしてその場に座り込んだ。
……嘘だろ。マスク一つでこんなに可愛くなる物なのか?
「……将君?」
エプロンを着ていた愛理姉の口元は、マスクで見えなくなっていた。
ふっくらとした頬も隠されていて、愛理姉の輪郭が少し分からない。
だが、それがまた想像力を引き立て、可愛さを増させていた。
「どうしたの?」
「……?」
二人は俺を覗き込んできた。
「……悪い。少し考え事してた」
「今日、学校休もうかな……」
愛理姉は弱弱しい声でつぶやく。
確かに、顔色も悪くなっている。
「無理するなよ」
「わかったよ……げほっ」
愛理姉はテーブルの前に座ると、その場でテーブルに顔を突っ伏した。
俺と美香姉は顔を見合わせる。
「作るか」
「……うん」
作りかけの味噌汁を見た俺と美香姉は顔を見合わせた。
「……美香姉はおわんを頼めるか?」
「わかった」
美香姉に味付けを頼むととんでもない物が出来てしまう。
美香姉がおわんを探している間に、俺はおたまで味見をする。
「……うーん」
何だかいつもの味じゃない。
少しだけ味噌足してみるか。
「将君。下の棚に合わせ味噌が入ってるから」
「ありがとな」
それを感じ取ったのか、後ろでテーブルに突っ伏している愛理姉が言った。
確かに、下に合わせ味噌がある。これを使うわけか。
「私も味見したけど、何か足りなかったよ」
愛理姉も足りないと思ったのか。
ちょっとだけ味噌を入れておこう。
……ん? じゃあ、このおたまは……
「……」
愛理姉が、口を付けた、おたま?
ひょっとしてだが、俺は、まさか……あれをやっちまったのか?
「はい」
美香姉がおわんを持って来た時、我に帰る。
いい感じに仕上がった味噌汁をおわんに入れながら、俺はふと考えていた。
……何でかは分からないが、息が少しだけ荒くなっている。
熱が出た……訳ではなさそうだ。
「……将?」
「何でもない」
胸が熱い、この変な感情は……まさかね。