有名な姉 3(終)
家に着いた理子姉は、大量のドーナツを居間に持ち込んだ。
「買ってきたわよ」
「……!」
「やったー!」
「助かるわ。理子」
三人とも、ドーナツの箱を見て笑顔になる。
理子姉の凄いところは、こういうところだった。
「……将君? 食べないのかしら?」
「あ、食べるよ」
俺は箱の中からチョコレートドーナツを取り出した。
理子姉は、俺たちの事をよく知っている。
そして、どうしたらよいのかもきちんと分かっているのだ。
ドーナツの甘さが口の中で広がり、朝の苦悩を吹き飛ばす。
「理子姉。将君と何してきたの?」
「デートしてきたの。なんちゃって」
「むぐぅ……」
顔が真っ赤になる俺をさておき、理子姉は言った。
愛理姉は何故か悔しそうな顔を浮かべ、その場で縮こまる。
「いつもの理子に戻ったみたいね」
「私はいつもそうじゃない? 百合姉」
理子姉の顔は、笑顔だった。
それを見るだけでも、俺は幸せになれる。
理子姉の手が俺に触れたとき、身体中が震えた。
「今日、将君と一緒に寝てもいい?」
三人とも、今日は優しく微笑んでいた。
……そうなるか。
腕枕してもらっている俺の横で、理子姉が子守唄を歌っていた。
「俺はそんな子供じゃないよ」
「いいのいいの」
究極の子守唄。
日本中で知られている有名な歌手の子守唄だ。
眠れるどころか、身体中が興奮して余計に起きてしまう。
歌が終わると、理子姉はあくびをした。
か、かわいい……だと?
「将君。おやすみ」
「おやすみ……理子姉」
理子姉は顔を赤くすると、腕枕をしたまま寝てしまった。
俺は理子姉の腕の上で天井を眺める。
「……」
幸せ。
これが、俺が欲しかったものなのかもしれない。
最近ようやく分かり始めてきた事だった。